『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』が描く“ご近所コミュニティ” 現代の理想郷はなぜ成り立つ?

『のほほん』に学ぶ「自分らしい生き方」

 この物語に、大きな出来事は起こらない。きたろうによる冒頭のナレーションが「これは、姉妹のフリをしたふふふな2人が、阿佐ヶ谷の町の6畳一間で眼鏡を寄せあい暮らす、それだけの、ただそれだけの、のほほんとした、のほほんとしたお話です」と語るように、“ドラマチックさ”とは無縁の作品だ。しかし、この「よかったら見ていって」ぐらいにハードルを下げたゆるい空気の中に、実に今日的なテーマが潜んでいる。

 血縁関係のない中年の独身女性2人が、6畳一間で共に暮らしている。場合によっては奇異の目で見られるかもしれない。けれど、この優しい世界のご近所さんや商店街の人たちは、エリコとミホを温かく見守り、応援している。ここには、現代の東京において絶滅を危惧される「ご近所コミュニティ」がある。それをつかさどるのは絶妙な「距離感」だ。商店街の煎餅屋のおかみさん・ひろみ(楠見薫)が(本当は2人のためにわざわざ作ったのに)「餃子作りすぎちゃって」「困る? 困る?」と持ってくるシーンに表されるように、「ズカズカ」ではない「そっと」感がある。

 こんな“理想郷”が成り立つ理由として、高円寺でもない荻窪でもない、阿佐ヶ谷ならではの土地柄はもちろん大きいのだろう。しかし一番の要因は、この「一見地味で普通っぽいけど、ちょっと普通じゃない2人」の「自分らしさ」ではないだろうか。「人からどう見られるか」とか、虚飾とか見栄とか、そういったものに縛られずに生きる彼女たちの「自然体」に、阿佐ヶ谷の人々も視聴者も惹かれて、そして見守りたくなるのではないか。思えば、阿佐ヶ谷姉妹という芸人の芸風、世界観そのものが、絶妙な「距離感」から成り立つものであり、多様性の体現であり、だから時代が彼女たちを求めるのだろう。

 「一般的な世間の目」の象徴して、2人の母親の存在がある(エリコの母親を松金よね子、ミホの母親を中田喜子が演じており、これまた絶妙なキャスティングだ)。「結婚しろとは言わないけど、誰かいい人見つけるとか……」だの「前髪を切れ」だのと、ソフトではあるが、まあまあ干渉してくる。そういった一般的な規範を「のほほん」とかわしながら、お笑いという夢を追い続ける2人がかっこいい。

 第1話で、「なんでそんなに私と一緒に暮らしたいの?」と訊ねるミホに、エリコが「私が楽しく暮らしたいから」と答えた。今、この世の中にあって、本当の意味で「私らしくあること」「自由であること」とはどういうことなのか、考えさせられる。

 劇伴を担当するceroの高城晶平と王舟がそれぞれ作詞作曲、編曲を手がけた挿入歌(エンディング曲)のタイトル「Neighborhood Story」が象徴的だ。そう、これは互いに得難い人生のご“近所さん”(Neighborhood)を見つけた2人が、のほほんと共生しながら、幸せを探す物語なのだ。

※「高城晶平」の「高」ははしごだかが正式表記。

■放送情報
よるドラ『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』
NHK総合にて、毎週月曜22:45〜23:15放送(全7回)
原作:阿佐ヶ谷姉妹著『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』
脚本:ふじきみつ彦
音楽:髙城晶平(cero)・王舟
出演:木村多江、安藤玉恵、いしのようこ、中川大輔、楠見薫、山脇辰哉、宇崎竜童、研ナオコほか
制作統括:三鬼一希、櫻井壮一
演出:津田温子、堀内裕介、新田真三、佐藤譲
写真提供=NHK

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