『カムカム』安子と稔に戦争の壁が立ちはだかる それでも“るい”とともに歩む日向の道

『カムカム』安子と稔に現実を突きつける戦争

 だが、1945年6月29日の岡山空襲により、安子は作り笑顔さえもままならなくなってしまう。小しずとひさが、焼夷弾に焼かれて亡くなってしまったのだ。母と妻の名前を叫ぶ金太(甲本雅裕)。大事な存在を亡くしたショックに加えて、後悔の念に駆られていた。“あの防空壕に入れ”と言ってしまったのが、自分だったから。もちろん、2人の死は金太のせいではない。小しずとひさの命を守ろうとして、言ったことなのだから。でも当の本人からすれば、“自分のせいだ”と思ってしまうのも、無理はない。もしも、あの時ちがう防空壕に避難させていれば……。救われていた“かもしれない”可能性を考えるほど、金太の心は罪悪感に苛まれていく。

 子どものように泣き喚く父を見て、何もできない安子も苦しい。幸せを手にしたばかりなのに。愛する人と結婚して、大事な娘が生まれて。いちばん、笑顔でいたい時なのに。どうして、苦しいことばかりが降りかかってくるのだろう。稔が近くにいない今、安子にとって橘の家族は心の拠り所だったはずだ。それなのに、たった一瞬で壊されてしまうというのか。大好きな母と祖母の存在、そして父の心も。

 空襲から1カ月半が経ち、日本は終戦を迎えることになる。たとえ戦争が終わったとしても、一度壊れたものは二度と戻ってこない。安子自身も、祖母と母を同時に亡くした事実を受け入れることができていない。それでも、金太に「あんこの作り方、教えてくれんかな?」と声をかけたのは、“前に進まなければ”という心の表れではないだろうか。過去に戻ることができないのなら、次の幸せを見つけなければ。これから、るいとともに、日向の道を歩いていかないといけないのだから。

 幸せな生活からたった数カ月で、安子を取り巻く世界は一変してしまった。夫が戦争に行き、祖母と母を亡くし、大好きな商店街は変わり果てた。兄の算太(濱田岳)の状況も分からないし、疎開した幼なじみのきぬ(小野花梨)とは離ればなれに。それでも、たくましいヒロインのことだ。強く、優しく乗り越えてくれると願いたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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