『カムカムエヴリバディ』の“右脳的感覚”を与える演出術 ラジオ&和菓子描写に注目

 NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』が第1週を終えた。本作はラジオ英語講座と共に歩んだ3世代のヒロインにフォーカスすることで女性たちの日常を描く。第1週では初代ヒロイン・安子を上白石萌音が演じ、明るい朝を彩っていた。今回は、そんな本作について、演出の安達もじりと制作統括の堀之内礼二郎に話を聞いた。

長い尺でラジオのカットを入れる意識

――今回、『カムカムエヴリバディ』では戦前・戦中の映像に「懐かしさ」や「古き良き時代」を大切にした演出が見られました。これは、100年を描く中で移りゆく時代性を顕著にする狙いがあってのことでしょうか?

安達もじり(以下、安達):時代と場所によって、撮り方や表現を変えていこう、と意識して撮影を開始しました。ですが、実際にどんなトーンにするのかというのは、ぼんやり考えているだけで現状答えは見えていないです。今は撮影内容が深津絵里さん演じるるいの代に変わり、岡山から大阪へと舞台を移して撮影をしています。岡山に比べると、都会色の強い演出にしたいとは考えています。最初の1~2週では、岡山はどういう街なのかを感じたままに撮っていて、取材とかロケとかで触れ合う中で、非常にあたたかい街だなと感じました。そのあたたかさが出るように、穏やかな時が流れるような作り方をしていこうというのが、1~2週の演出で目指した部分です。これから、川栄(李奈)さんの代の撮影に入りますが、それはまだ探っています。

――確かに、岡山でのシーンは非常に穏やかで心が癒されました。作中では漫才師や映画俳優が出てきてチャンバラを見せるシーンもありましたが、ずいぶん自然な感じで物語の中に溶け込んでいたように思いました。これらのシーンではじっくりと技や映画の世界を見せているように感じましたが、意図した演出なのでしょうか。

安達:落ち着いて見ることができるというのが1番だと意識しておりました。加えて、なぜここで時代劇の映画のシーンが、こんなに長い尺で入っているのかという意味をわかってもらえるように堂々とやろうと思いましたね。編集してみたら、これらのシーンですごく全体が豊かになると感じたのでよかったです。当時の文化や人々が接してきたものを、奇をてらわずに素直に見せるのも面白いなというのは、やりながら感じ始めています。もう一つは、このドラマでは“ラジオ”が非常にキーアイテムになっておりまして、ほぼラジオが1人の登場人物のような扱いで描かれています。ただ、ラジオの向こう側の世界は、オープニングでしかなくて、後はひたすら聞いている側の物語という形をとっています。ラジオだけを撮っているカットは普通ならこんなに入れないのですが、丁寧に、長い尺でラジオのカットを入れることは意識しています。

――安達さんはよくモンタージュ的な撮り方をされるイメージがあります。ラジオや、レコードの針など、印象的なアイテムを、俳優のひとりであるかのように撮っていますよね。今回も、そういった演出は意図的に組み込まれるのでしょうか?

安達:よくやっている短いカットを積み重ねたシーンは、今回多くないと思います。その点は、新しい手法で描こうと思っている節がありますね。物語自体、すごくユニークなことをやっている気がするので、あえて、普通に撮るという事を意識しています。一見普通のドラマに見えるんだけど、実はやっている事はめちゃくちゃチャレンジング、というのを普通に撮ることでごまかしている感じがします(笑)。

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