『燃えよ剣』を支える男たち 鈴木亮平、伊藤英明、安井順平が見せた“もう一つの顔”
満を持して公開された歴史超大作『燃えよ剣』。幕末を駆け抜けた新選組の活躍を描いた本作には、土方歳三を演じる主演の岡田准一を筆頭に、粒揃いの俳優が隊士役として配されている。ここでは、鈴木亮平、伊藤英明、安井順平という、本作において絶対に欠かすことのできない役どころをまっとうした者たちについて熱量高めに記していきたい。
鈴木亮平の安定感ある絶対的なリーダー像
鉄の掟・“局中法度”によって烏合の衆を束ね上げる、新選組副長の土方歳三。その彼の上に立つのが、局長の近藤勇である。二人は同郷の士であり、いうなれば盟友。互いが互いにとってなくてはならない関係性にある。新選組において、近藤を局長として引き立てるのが土方の役割であり、それに応えるのが近藤の役目だ。土方にとって近藤とは、新選組の絶対的なリーダーでなければならない存在なのである。
これを演じているのが、ドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(TBS系)と、映画『孤狼の血 LEVEL2』でも“リーダー”に扮した鈴木亮平。前者では救命救急のプロフェッショナルチームを率いる真のリーダーを演じ、危険を顧みずに人命救助を最優先させる、笑顔の絶えない姿が好印象だった。一方の後者で演じたのは、とある暴力団の組長。やることなすことのすべてが“悪魔”のような男ではあるものの、彼と同じように冷酷な組員たちをまとめていることから、この男もまたリーダーなのだと思う。
今作での近藤勇役は、鈴木のチャームポイントである笑顔や恵まれ鍛え上げられた肉体が組織の長である人間の絶対的な安定感にも繋がり、記憶に残る地鳴りのような声は局長の威厳として活きている。ここにまた一つ、鈴木亮平のキャリアにおける代表的なキャラクターが誕生したのではないだろうか。
伊藤英明が芹沢鴨役で見せる“悪い顔”
新選組の黎明期について語るうえで、欠かすことのできない男がいる。芹沢鴨である。彼は近藤や土方とは同郷でなく水戸の出身。学があり剣の腕も相当なもので、新選組の結成当初には“初代筆頭局長”の座に就いていた。これは土方の発案で、手練れの配下を持ち、顔の利くこの男を祭り上げれば、どうにか組織を築くことができるのではないかと考えたから。
しかしこの芹沢、とんでもない男なのである。大変な酒乱であり、激しやすい性格で、気に食わない相手がいるとすぐさま刀を抜く。金に関しても女性に対しても方々で乱暴狼藉を働き、やがて新選組にとって邪魔な存在となるのだ。この歴史に名を刻む悪人役として伊藤英明が配されていることを知った際は、素晴らしいキャスティングだと思った。
彼も鈴木と同様に見事な肉体を持ち、これは芹沢の豪傑ぶりの説得力に繋がる。それに、伊藤のキャリアの契機となった『悪の教典』から早9年。久しぶりにあの“悪い顔”が見られることに期待したからだ。実際、本作では憎まれ役の演技に徹している。発する声も視線の動きも、そのいちいちが卑しいものだ。それがあるからこそ、刀を抜いた瞬間の彼の気迫はスクリーン越しに歓客を恐怖で覆う。さまざまな意味において、新選組が飛躍するためになくてはならなかった芹沢鴨という存在。伊藤英明は十全に体現しているだろう。