『燃えよ剣』を支える男たち　鈴木亮平、伊藤英明、安井順平が見せた“もう一つの顔”

安井順平が得意の話芸を武器に作り上げる山南敬介像

　山南敬介もまた、黎明期の新選組を語るうえで欠かせない人物である。烏合の衆の中でも数少ない学のある人物で、剣の腕も立った彼の役職は総長。局長・近藤勇の相談役のようなポジションだ。ネタバレではなく史実なので書いてしまうが、彼は鉄の掟・“局中法度”により切腹を余儀なくされる隊士の一人。幕末動乱期において日を増すごとに過激化する新選組の活動に異を唱え、禁忌である脱走を犯すのだ。この新選組を揺るがないものとしているのは法度を作った土方であり、山南の行動は土方に異を唱えるもの。司馬遼太郎による原作にも書かれているが、喧嘩師である土方からするとこの山南は、インテリで癇に障る人物のようだ。これをこの上ないレベルでモノにしたのが安井順平である。

　演劇フィールドを主戦場とする彼らしく、得意の話芸を武器に、山南敬介像を作り上げている。滑らかに繰り出されるセリフの流れが美しく、大勢による会話劇のシーンでは、声の緩急を自在に操ることでアクセントをつけ、山南の存在を観客に印象づけてくる。これと同じことが、隊内でも起きていたのだろう。私たち観客が彼の存在に引っかかりを持つのだから、土方が引っかかりを持たないわけがない。物語が土方視点で進むためにこのような演技・演出が見られるのだと思うが、ぜひともまた別の角度から、“山南敬介＝安井順平”を見てみたいものである。

　本作『燃えよ剣』は、土方歳三の生涯を描いたものだ。彼の人生には、近藤勇、芹沢鴨、山南敬介の存在があり、互いに影響し合った。彼らがいなければ、今日まで語り継がれる土方歳三という人間は生まれなかっただろう。本作で主演の岡田准一が作品の中心に立っていられるのは、鈴木亮平、伊藤英明、安井順平の存在があってこそである。

■公開情報
映画『燃えよ剣』
全国公開中
出演：岡田准一、柴咲コウ、鈴木亮平、山田涼介、尾上右近、山田裕貴、たかお鷹、坂東巳之助、安井順平、谷田歩、金田哲、松下洸平、村本大輔、高嶋政宏、柄本明、市村正親、伊藤英明
脚本・監督：原田眞人
原作：司馬遼太郎『燃えよ剣』（新潮文庫刊）
製作：『燃えよ剣』製作委員会
製作プロダクション：東宝映画
配給：東宝、アスミック・エース
(c)2021「燃えよ剣」製作委員会
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