『イカゲーム』に『D.P.』も ドラマが映す、兵役・学歴重視など韓国社会の現実

人気ドラマが映す、韓国社会の問題点の数々

 格差や貧困、差別など内在する現代社会の歪みを、プリミティブなサバイバルゲームによって描き出した韓国ドラマ『イカゲーム』がNetflix史上最大のヒット作品となった。まもなくハロウィン、今年は緑のジャージや赤い警備服に身をつつんだ者たちが世界各地に溢れることだろう。それほどの支持を得た同作をはじめ、韓国のドラマは(映画はもちろん)実際の出来事や情勢を物語に盛り込み、見事な案配でエンターテインメントに昇華させることに長けている。特に、最近の作品は韓流=キラキラしたラブコメのイメージを覆すような、韓国独特の“現実”にも果敢に向き合おうとしている。

『D.P.』が暴いた、誰もが見て見ぬふりしてきた問題

 まず、印象深いのは、『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』の“国民の年下彼氏”でブレイクしたチョン・ヘイン主演の『D.P. -脱走兵追跡官-』で、閉鎖的かつ圧迫的な軍隊での常態化する精神的・身体的暴力がつぶさに描かれたこと。軍務を離脱した者を逮捕する専門の役職が存在するなんて、今作で初めて知った方も多いはずだ。

 たとえトップ俳優や人気K-POPアイドルであっても、韓国男子はこの約2年間の兵役はたいていは避けられない。外でどんな生活を送り、何を生きがいにしようが、どんなに称賛を受けようが、ここでは一介の兵士にすぎず、尊厳を奪われる行為が日常茶飯事ならば逃げ出したくもなる。時には究極の選択をする場合もある。チョン・ヘイン演じるアン・ジュンホや、ク・ギョファンが演じるハン・ホヨルが脱走兵に手錠をかける瞬間は、果たしてこれが本当に“正義”なのかと、ある種の虚無感に襲われてしまう。逃げるからには、必ず理由があるのだ。

 無骨なアン・ジュンホが、父親のDVから逃げられない母親を避けるように軍隊を選ぶ背景や、温厚な漫画家先生の先輩兵士チョ・ソクポン(チョ・ヒョンチョル)が辿る顛末は決して対岸の火事ではない。また、除隊後に周囲からいっそう求められる、“男らしさ”への反証にもとれる部分もある。日本の社会であっても、例えば学校やコミュニティでも起こり得るし、今もどこかで傍観されながら実際に起きていることだ。

学歴重視・格差・IT社会……優等生が陥る生き地獄『人間レッスン』

 学校といえば、『人間レッスン』では進学・就職・結婚といった“平凡な人生”を夢見る、いわゆる品行方正で真面目な高校生がSNSを利用して犯罪に加担するという歪みが描かれた。しかも演じていたのは、パク・ソジュン主演のヒット作『梨泰院クラス』や韓国のいき過ぎた超学歴社会と格差社会に迫った『SKYキャッスル〜上流階級の妻たち〜』のキム・ドンヒ。最難関のソウル大学(S)、高麗大学(K)、延世大学(Y)合格を目指すセレブ一家の双子の息子の1人を演じていた彼が、「SKY one step above(SKY の一歩上へ)」と部屋に張り紙をする主人公のオ・ジス役とは皮肉めいていた。

 親に捨てられたジスが“まっとうに生きる”ための資金(学費や生活費)を稼ごうとして、その頭脳とSNSを駆使して売春ビジネスに手を染めているなんて周囲の大人は夢にも思わない。そんな彼の秘密をいち早くかぎつけ、この危険なビジネスに手を染めていくのが、リッチな両親から圧迫教育を受け息苦しさを抱える同級生ギュリ(パク・ジュヒョン)であることにも納得してしまう。

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