『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』アニメーションの魅力とは 美術や演出から解説

 『外伝 -永遠と自動手記人形-』は、ヴァイオレットとイザベラの会話劇が中心となった作品。バトルアニメのようにグリグリとキャラクターが動き回ることが少ない本作において、キャラクターをいかに彩るかは非常に重要だ。

 本作では「どのように動いていくのか」というアニメーションの動きだけではなく、「どのように色づけられるのか」「どのように観る人に印象付けるのか」といったアニメーションの彩色・美術・演出効果というセクションに注目すべきだろう。

 TVアニメのシーンを再編集して使用する際には、映画スクリーンに合わせて縦横比を変えており、ボヤけていく空から落ちてくる雨や雪の動き・描かれ方、水のきらめきや木々の揺れ方、部屋に光が差してきて照らされるホコリ一つ一つ、蝋燭に揺らめく炎など、あらゆる場面で景色がドラマティックかつ繊細に描かれているのも特筆すべき点だ。

 カットの中心となる(または声を発している)人物にピントを合わせ、その周囲をボカすレンズ表現も、実写映画を思わせる細かい演出だ。この演出表現は京都アニメーションの十八番ともいえ、様々な場面で確認できる。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』予告

 『外伝 -永遠と自動手記人形-』は都会からは離れた田園豊かな女学校を舞台にしていることもあり、人物(被写体)の存在を小さくし、自然の風景が全面に広がったロングショットも多く登場する。豊かな色彩設計や背景美術に加え、上述した撮影処理や特殊効果も加わったことにより観客を感嘆させるような印象深いシーンとなっている。

「何が実写で何がアニメかと問うこと自体に意味がないのかも。要するに、全部アニメーションだと考えるのが一番手っ取り早い。フィルムが動きをとらえて、その世界にしか存在しない人物が出てくれば、すべて映画。絵を撮影しようが役者を撮影しようが同じことだと」

 『すべての映画はアニメになる』で押井守はこのような言葉を発している。ヴァイオレットという一人の女性を中心にしたヒューマンドラマとして描いた今作は、まさにこの世界にしか存在しない人物を重厚かつ丁寧に描いてみせた。

 『東京アニメアワードフェスティバル2021』において、『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は複数の賞を受賞した。劇場映画部門と原作・脚本部門に加え、美術・色彩・映像部門に選出されたのは渡邊美希子氏だ。2019年7月に起こった放火殺人事件で犠牲となった彼女は、本作シリーズの全てで美術監督としての任を全うした。もちろん色彩設計の米田侑加や撮影監督の船本孝平を筆頭に、そのほかのスタッフの貢献も見過ごすことはできないだろう。

 このように、撮影の段階でさまざまな工夫とアイディアを盛り込むこうした特殊効果を加えることでキャラクターに特別な存在感を与えているのも、本作シリーズの魅力になるだろう。また、原画から撮影に至るまでの一部始終は『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の公式サイトでも覗くことができるので必見だ。

■放送情報
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 特別編集版』
日本テレビ系にて、10月29日(金)21:00〜22:54放送
監督:石立太一
シリーズ構成:吉田玲子
キャラクターデザイン・総作画監督:高瀬亜貴子
原作:暁佳奈
制作:京都アニメーション

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 ー永遠と自動手記人形ー』
日本テレビ系にて、11月5日(金)21:00〜22:54放送
※本編ノーカット
監督:藤田春香
監修:石立太一
シリーズ構成:吉田玲子
脚本:鈴木貴昭、浦畑達彦
キャラクターデザイン・総作画監督:高瀬亜貴子
原作:暁佳奈
制作:京都アニメーション

(c)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会

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