『おかえりモネ』新次に訪れた心境の変化 嵐の夜を越えて及川家が迎えた朝
嵐の晩から一夜が明けて、市民プラザで新次(浅野忠信)と会った百音(清原果耶)は、亮(永瀬廉)が「幸せになってもいいのかな」と話していたことを伝える。
『おかえりモネ』(NHK総合)第23週のタイトルは「大人たちの決着」。112話では及川家の決着が描かれた。百音に連れられて永浦家を訪れた新次は、耕治(内野聖陽)に死亡届と印鑑、使い古された携帯電話を差し出す。死亡届は美波(坂井真紀)のもので、携帯電話には家族写真と津波に襲われる直前の美波の肉声が収められていた。美波が逝ったあの日から、新次は携帯を手放すことができなかった。新次にとってそれは一家の幸福な記憶の象徴で、数少ない美波と自分をつなぐものだった。携帯を差し出したことは、新次の心境の変化を物語っていた。
座卓を挟んで向かい合う幼なじみの耕治と新次。「多少は金が入んだろう、これ出せば? それを亮に渡してやりてえ。亮が船を買うのちょっとでも助けてやれんなら、美波も喜ぶだろ」。ずっと出せなかった死亡届を新次が出そうと思ったのは、前夜の出来事が影響していた。戻って来ない亮を港で待つ間、新次は美波のことを考えていた。「俺な、美波に祈ってたんだよ。亮を連れてかねえでくれって」。新次には、海の向こうに行ってしまった美波が亮を呼んでいるように思えたのだ。
嵐の海を凝視する新次の中では、相反する想念が猛烈な勢いで渦巻いていた。「おめえがあのまま向こうによ、こう……。そしたら、美波も寂しくねえとか。いろんなことがここ(頭)よぎんのが、もう怖くてよ」。「亮、戻してくれって、ひたすら美波に祈ってたんだよ」。妻だけでなく一人息子まで海に取られてしまう恐怖と、その反面、こちら側にいない美波の身を案じてもいる。その時、新次が気付いたことは「美波が向こうにいるって。そう思ってるから、美波に祈ってたんだよ」。
美波がいない空白を新次は埋めることができずにいた。しかし、嵐の中で新次は美波がたしかにそこにいると感じた。少なくとも自分の中で美波は今でも生き続けている。そう思えた時に、新次は初めて美波の死を受け入れることができた。一方の亮は、自分には幸せになる資格がないと思うことで美波の不在に耐え続けてきた。自分自身を許し、幸福に向かって踏み出した亮を応援するなら、美波も喜んでくれる。かつて美波を奪った海を「恨んでいない」と話した新次。嵐の夜がばらばらになった一家をふたたび元の姿に結びつけた。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK