香港映画マインドに溢れた『シャン・チー』 功夫映画的な物語構造と成長譚としての魅力

香港映画マインドに溢れた『シャン・チー』

 俳優でいえば、トニー・レオンへの言及は欠かせない。正直、最初に彼がヴィランに起用されたと聞いたとき、私は懐疑的だった。「マーベルで功夫映画をやるなら、ジャッキー・チェンやウー・ジンは国家の都合があるから無理だとしても、もっと強そうな人の方がよかったんじゃないかなぁ」と。しかし、実際に観てみると、この繊細な役はトニー・レオンのハマり役だった。この場を借りて謝罪したい。制作サイドの意図が読めていませんでした。ごめんなさい。

 これと同じことは、主演のシム・リウにも言える。「こんな普通のアンちゃんみたいな人でいいのか? もっとこう、生前のブルース・リーみたいな逸材や、若い頃のドニー・イェンみたいなギラギラした人を……」と思ったが、実際に観てみると、むしろあの普通のアンちゃんなのが大事なのだと痛感させられた。格闘シーンのキレもさることながら、オークワフィナとの漫才、そしてカラオケのシーンの何と愛らしいことだろう。この点に関しても、まず謝罪したい。私の見る目がなかったです。ごめんなさい。

 思えば今でこそハマり役だが、ソー役のクリス・ヘムズワースや、キャプテン・アメリカ役のクリス・エヴァンスだって。最初は普通のアンちゃんだった。これからシム・リウのシャン・チーは、間違いなく魅力的なキャラクターへ進化していくことだろう。そう期待させるには十分な面白さだった。本作はMCUの新たなヒーローの誕生譚であり、どこに出しても通用するエンターテインメント作品であり、香港映画マインドに溢れた快作だ。

■公開情報
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』
全国公開中
監督:デスティン・ダニエル・クレットン
出演:シム・リウ、トニー・レオン、オークワフィナ、ミシェル・ヨーほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)Marvel Studios 2021

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