『ブラック・ウィドウ』が描いた“一つの希望” マーベル・スタジオのヒーロー映画から考察

『ブラック・ウィドウ』が描く“一つの希望”

 『アイアンマン2』(2010年)から『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)まで、マーベル・スタジオの映画で約10年の間活躍してきた、スカーレット・ヨハンソン演じるヒーロー、ブラック・ウィドウ。彼女は、アイアンマンやキャプテン・アメリカらとともに、この度シリーズから離脱することとなった。その最後の花道として公開されたのが、彼女が主演を務め、堂々その名をタイトルとした映画『ブラック・ウィドウ』である。

 マーベル・スタジオは、この10数年間、空前のアメコミヒーロー映画ブームを起こしてきた。だが一方で、女性のヒーローを主役とする映画は『キャプテン・マーベル』(2019年)まで作られてこず、DCコミック原作による映画『ワンダーウーマン』(2017年)の大ヒットによって、女性ヒーローの分野では後塵を拝することとなった。この出遅れは、差別や偏見と戦ってきたはずのマーベル・スタジオにしては保守的な姿勢だったのではないだろうか。

 しかし、女性ヒーローの映画が大ヒットに結びつくことが分かったことや、10年の間に社会の状況、アメリカ映画の状況がダイナミックに変化したことで、ついにこの企画が成立し、新型コロナのパンデミックによって公開が延期されつつも、劇場公開にまでこぎつけることができた。かくして、シリーズの中でも古参といえるブラック・ウィドウが、超大作のスクリーンで最も輝く存在となったのだ。ここでは、そんなブラック・ウィドウだからこそ描き得た、本作の内容について考えていきたい。

 マーベル・スタジオの映画作品としては、女性監督の単独クレジットも初となった。オーストラリア出身のケイト・ショートランド監督は、これまで女性を主人公にした鮮烈な内容の映画を手がけてきた俊英。本作でも、ブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフが、非人道的なスパイ教育を受ける子ども時代の暗い過去を暗示する冒頭のシーンから、その手腕が発揮されている。

 スパイを養成する“レッドルーム”で洗脳教育を受けて暗殺任務をこなしていく悲痛さや、少女たちが不妊手術を受けたり脳を解剖される残虐なイメージ……。この一連の映像は、一部の音楽や映画が内省や自虐をとり込んで、暗く沈んだ傾向を見せた90年代を代表するニルヴァーナのカヴァー曲とともに映し出されていく。

 そこから舞台は21年後の、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)で描かれた、アベンジャーズが思想の違いにより分裂した時期に移る。すでにレッドルームの影響から脱しているナターシャは、アベンジャーズの中心メンバーとして、その事態に心を痛めていた。そんなとき、子ども時代に任務のために偽の家族として暮らしてきたエレーナ(フローレンス・ピュー)と再会する。

 彼女によると、ナターシャがすでに壊滅させたと思っていたレッドルームは、いまだ暗躍を続け、世界を牛耳っているのだという。組織と首謀者ドレイコフへの復讐を遂げようとするナターシャとエレーナ。その前に立ち塞がり、命を狙うのは、顔を隠した謎の戦士タスクマスターと、ドレイコフに洗脳され暗殺者に仕立て上げられた女性たちだ。

 ナターシャと同じく、身寄りがなく暗殺者としての過去を背負ってきたはずのエレーナは、意外にもかなりひょうきんなキャラクターだ。ナターシャの正義のヒーローとしての活躍を知っている彼女が、「何なの、あのポーズは。地上に着地して、“髪パッサー”ってやるやつ」と、ナターシャ独特の決めポーズを真似して揶揄する演技は、観客の心を一瞬でとらえる名場面だ。この笑えるシーンがいっそう微笑ましいのは、そんな憎まれ口を叩いているエレーナは、じつは幼少期に暮らしていた“姉”に会うことができて、はしゃいでいることが伝わってくるからである。

 さらに、彼女たちの親として疑似家族を形成していたアレクセイ(デヴィッド・ハーバー)、メリーナ(レイチェル・ワイズ)も二人に合流し、懐かしの“一家集合(アッセンブル)”を果たす。この孤独な4人は、それぞれに自己主張が強い性格ながら、家族として暮らした日々を全員が特別なものだと感じていたことが明らかになっていく。そんな一連の描写から発せられるのは、「必ずしも“血の繋がり”だけが家族ではない」というメッセージだ。血縁関係にあっても虐待をする親は現実に存在するし、なくても豊かな関係を築きあげている家庭はたくさんある。疑似家族が本当の家族になっていく過程を見せることは、多様な家庭のかたちを肯定することに繋がる。

 そして、そんな家族の仲を取り持ったナターシャは、“もう一つの家族”であるアベンジャーズの関係をも修復させようと決意を強くすることになる。その後の彼女のアベンジャーズへの献身的な行為には、身寄りのなかったナターシャが見つけた大事な家族をもう一度まとめようという気持ちが存在していたのだ。本作が作られたことで、『アベンジャーズ』シリーズに、さらなる深みと、心を震わせる要素が加えることになった。その意味で、本作はシリーズ全体に影響を及ぼす作品にもなったといえよう。



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