誰もが楽しめる知的な政治風刺劇 『スイング・ステート』のコメディ作品としての魅力

『スイング・ステート』を宇野維正がレビュー

 2020年はアメリカ映画にとってどんな年だったか? まずは、言うまでもなくパンデミックが広がった3月以降に公開が予定されていた作品の多くが公開延期や配信公開になった年だったわけだが、もう一つ重要だったのは、11月に大統領選が予定されていたことだ。結果、選挙を見据えて劇場公開が予定されていたいくつかの政治的イシューを扱った映画が、配信で公開されることとなった。代表的な作品は、パラマウント映画が配信権をNetflixに売却したアーロン・ソーキン監督の『シカゴ7裁判』だろう。また、ディズニーが大々的に世界公開する予定で配給権を手に入れていた(結局はディズニープラスで配信されることになった)、リン=マニュエル・ミランダのブロードウェイ劇を撮影・編集した映画版『ハミルトン』もその一つだろう。何億ドルも製作費がかかっているブロックバスター作品とは違って、そうした作品には「パンデミックが明けるまで公開を延期する」という選択肢がなかった。大統領選前に、世論を喚起しなくてはいけなかったからだ。

 実は、本作『スイング・ステート』も同じような事情から、北米地域では2020年に一部劇場での公開と同時に有料配信でもリリースされて、同年に配信シフトされた作品の中で年間8位(参考:https://www.hollywoodreporter.com/business/business-news/skipping-theaters-hollywood-studios-weigh-risks-of-pvod-4080618/)のスマッシュヒットを記録した作品だ。もっとも、政治的イシューを扱った作品とはいっても、『スイング・ステート』は完全な風刺劇。扱ってるテーマも史実を元に民主主義の大切さを訴えたり(『シカゴ7裁判』)、アメリカ建国の理念に立ち返ったり(『ハミルトン』)するようなシリアスかつドメスティックなものではなく、テレビやネットを介しての劇場型政治、劇場型選挙のバカバカしさを絶え間のないユーモアと驚愕の展開によって描いた、(現代のアメリカがその急先鋒であるのは間違いないが)どの時代、どの国にも当てはまる普遍的なポリティカル・コメディとなっている。選挙の度に民主党と共和党で揺れる(=つまり熾烈な選挙戦が繰り広げられる)州を意味する「スイング・ステート」という邦題(原題は「抗し難い」という意味の「Irresistible」)は壮大なフリで、終盤には誰にも予想できないようなオチが待っている。

 純粋にコメディ作品として楽しむ上での『スイング・ステート』の最大のポイントは、やはり久々にコメディ演技に振り切った時のスティーヴ・カレルの凄みが堪能できることだろう。現代アメリカの病理を描き出した風刺劇としては『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015年)、政治モノとしてはジョージ・W・ブッシュ時代の副大統領ディック・チェイニーを演じた『バイス』(2018年)と、近年もアダム・マッケイ監督・脚本作品でその圧倒的な芸達者ぶりを披露してきたスティーヴ・カレルだが、マッケイ×カレル作品との比較でいうなら本作のテイストは両者にとって出世作となった『俺たちニュースキャスター』(2004年)のシリーズに一番近い。カレルが演じているのは民主党の選挙参謀。選挙参謀というと選挙の裏方を想像する人も多いと思うが、本作ではローズ・バーン演じる対立する共和党の選挙参謀によって表に引きずり出されて、メディア上でもガンガンやり合う。つまり、報じる側と報じられる側の違いはあれど、その主戦場となるのがニュース番組という意味でも、コメディ俳優としてのカレルのバック・トゥ・ルーツ的な作品でもあるのだ。

 監督・脚本・製作を務めているのは、アメリカのコメディ専門チャンネル、コメディ・セントラルの人気番組『ザ・デイリー・ショー』で長年キャスター、脚本、プロデュースを務めてきたジョン・スチュワート。アメリカでは誰もが知る人気コメディアンで、共和党政権やFOXニュースへの辛辣な批判など、リベラル寄りの主張が多いことでも知られている。つまり、本作の本国での公開が予定されていたタイミング、カレル演じる主人公が民主党サイドであることなどをふまえれば、2020年大統領選を前にした本作の製作意図は明らかーーかと思いきや、そう一筋縄ではいかないところがアメリカのコメディの最前線で長年にわたって戦ってきたクリエイターの懐の深さだ。ストーリーにあまり踏み込むとネタバレになってしまうが、保守とリベラルの間で綱渡りをするようなその見事な手捌きと語り口を、是非劇場で堪能してほしい。

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