『猫の恩返し』貫かれた後味の良さ ユーモラスで痛快な物語の魅力

『猫の恩返し』貫かれた後味の良さ

 そして猫の国の王様、猫王役には丹波哲郎。丹波は映画『クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦』(1999年)ですでにアニメ仕事の経験があるが、多分に丹波自身のキャラクターを反映させた役柄のせいもあり、かなり地の声で演じていた。だが猫王役は多彩な声の演技を披露しており、少し聴いただけでは丹波哲郎とは気づかない人もいるかも知れないほど巧い。人間側のキャラクターでも、ハルの母親役を演じる岡江久美子はアニメやアフレコの仕事を過去にこなしているため、声だけの演技に慣れている感じが芝居から伝わってきて好印象。

 『猫の恩返し』は、猫を助けたことから騒動に巻き込まれるハルが「猫なんか助けなければ良かった」と自らの行いを後悔する。彼女は学校の同級生の男子に片思いしているという背景もあるのだが、多くの冒険と経験を積んで「私、間違ってなんかいなかった。猫を助けたことも、迷って苦しんだことも、みんな大切な自分の時間だったんだ」とポジティブな考え方に変わってゆく。悩みを抱えた主人公が事件に巻き込まれ、解決に向かう過程の中で少しだけ成長するというのは、冒険ものにありがちなセオリーだが、この映画は人間側、猫側の嫌味のないキャラクターと、教訓めいた説教臭さのない脚本のおかげで、最後までスッキリと楽しめるのが特徴だ。ラスト近くに映し出されるハルの外見が、映画序盤と見比べると変化があるのが分かるだろう。繰り返しテレビで放送されている作品だが、少女の成長譚として観ると、また新しい発見があるかも知れない。

■放送情報
『猫の恩返し』
日本テレビ系にて、8月20日(金)21:00~22:54放送(※本編ノーカット放送)
監督:森田宏幸
企画:宮崎駿
声の出演:池脇千鶴、袴田吉彦、前田亜季、山田孝之、佐藤仁美、渡辺哲、斉藤洋介、岡江久美子、丹波哲郎ほか
(c)2002 猫乃手堂・Studio Ghibli・NDHMT
公式サイト:https://kinro.ntv.co.jp/lineup/20210820
公式Twitter:@kinro_ntv

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