『不滅のあなたへ』が絶大な支持集める理由 豪華クリエイター陣による手腕を紐解く
業界を代表するベテランによって巧妙に引き上げられたドラマ性
監督は、むらた雅彦。2018年に放送された『つくもがみ貸します』(NHK総合)をはじめ、『劇場版 NARUTO -ナルト- ブラッド・プリズン』や『攻殻機動隊ARISE border:1 Ghost Pain』など多くの作品を手がけてきた。戦闘シーンのスピード感や迫力ある表現は、これまで手がけてきた作品を見ても一日の長がある。シリーズ構成は、『それいけ!アンパンマン』などやなせたかし作品や『ポケットモンスター』シリーズ、『ONE PIECE』などで脚本を手がける藤田伸三。子供が多く見るアニメが多い印象で、こういったダークファンタジー作品を手がけているのは意外にも感じるが、どの作品も根底には人としての大事な部分や、琴線に触れる部分が描かれていることは共通している。『不滅のあなたへ』では、藤田の手腕によって、それがより強調されていると言える。
毎週最後にホッと安堵した瞬間、「え?」と思わせて次週に続くという巧妙さ。自問自答を繰り返す禅問答のような、フシの言葉の重み。誰がどう見たって「こんなことがあっていいものか」と思うような最後でも、誰も運命を呪うようなことはしない。視聴者はフシの目を通して様々な人生に触れ、そこで芽生える感情を共有して行く。キャラクターそれぞれの生き様が、漫画という小さなコマ割りから解き放たれ、自由に生き生きとそれぞれの生を全うしている。業界を代表するベテラン勢によって、物語の持つドラマ性がより高く引き上げられ、手に汗握るような冒険譚へと昇華されている。
また、宇多田ヒカルが歌う主題歌「PINK BLOOD」や、浜渦正志によるエンディングテーマ「Mediator」も、物語を彩っている。「PINK BLOOD」は、シンプルなメロディとコーラスの積み重ね、エレクトリックなサウンドによって、フシが探し求める「自分とは?」という命題と向き合ったような楽曲。〈自分で選んだ椅子じゃなきゃだめ〉という歌詞の一節は、望むが望むまいが否が応でも訪れる死を、どう捉えるべきか考えさせられる。神秘的なストリングスで始まる「Mediator」は、ドラマチックなインストゥルメンタルで、そこに合わせられた映像も絶妙だ。最初に登場する少年の椅子が象徴的に使われていたり、グーグーとリーンのなれ初めのアイテムである紫の花束がパッと散るシーンがあるなど、物語を振り返りながら様々な想像をかき立ててくれる。
死は辛く悲しいものではあるが、人種や地位に関係なく誰のもとにもいずれ訪れる唯一の平等なもの。そうであるなら、どういった最後を望むのか、人のアイデンティティーとは最終的にそこに帰するのかもしれない。人と人との繋がりを考え、死と向き合い、自分自身を見つめる。多くの才能あるクリエーターたちの手による『不滅のあなたへ』という作品が放つメッセージは、今という時代にこそより鮮烈に輝いている。
■番組情報
アニメ『不滅のあなたへ』(NHK・E テレ)
NHK Eテレにて、毎週月曜22:50〜23:15放送(全20話)
主題歌:「PINK BLOOD」(作詞・作曲・歌:宇多田ヒカル)
(c)大今良時・講談社/NHK・NEP
公式サイト:https://anime-fumetsunoanatae.com/
公式Twitter:@nep_fumetsu
NHKサイト:https://nhk.jp/fumetsunoanatae/