ホラーではなく“ほっこりバディ映画”!? 『ヴェノム』の見どころは“負け犬同志の友情”

バディ映画としての『ヴェノム』

 サンフランシスコで撮影するカーチェイスは映える。「この先は行き止まりだ」と、丘の真上に差し掛かったときに「“俺たち”は平気!」、そう言って柵にヴェノムの触手が伸びて飛び越えると、最高にかっこいい音楽が鳴り始める。着地の瞬間、まるで観客の高鳴りに呼応するかのように、嬉しそうにエディも「よし!」なんて言う。

 しかしその後、よそ見運転で事故るエディ。スティーヴン・ストレンジといい、マーベルの人は本当、よそ見運転には気をつけてほしい。足もあらぬ方向に曲がり、普通なら死ぬレベルの怪我を負うも、シンビオートの力で再生しエディが初めてヴェノム化する。このシーンでは、自分を撃ってきた男の頭を丸呑みしてすぐに吐き出すのだが、本来ここはもっと残虐な出来になると予想されていた。しかし、大人の事情という名目で課せられた「P-13(日本ではP-12)」指定を守るために、あえて直接的なグロシーンは一切登場しない。公開時はそこがファンからは「ぬるい」「物足りない」と多くの声があがっていたが、結果『ヴェノム』がより大衆受けする映画になったのもこれのおかげかもしれない。

 一応その後の会話で警官の首を“噛みちぎった”と言うやりとりがあるため、実際やっていることの残酷さは変わらない。しかし、それを直接スクリーンで生々しく見せないことで、ヴェノムのヴィラン臭を抑え、ヒーローとしてのオリジン映画としての印象を強める機能も果たしているのだ。

 残虐さに欠けつつも、そこは「マスク!」「了解!」などのユーモアがこもったコンビの掛け合いなどで補われていく。やはり、彼らの友情が本作のヴィラン・ライオットとの最終戦でも大きな意味を持ってくるのだ。ライオットはヴェノムと同じように、ドレイクに寄生した悪のシンビオートで、地球侵略を目論む彼らのリーダーである。ヴェノムと比べて桁違いの力を持ち、他のシンビオートたちが「私についてくる」と自分の影響力をドレイクに話すシーンがある。ドレイクはそんなライオットの台詞に対して「違う、私たちだ」と言い返した。

 そう、この時点で彼らはヴェノムとエディのコンビとは、正反対の関係性にあることがわかる。確かにライオットに比べてヴェノムはシンビオートの中で、ある意味“負け犬”的な立場にあるし、宿主のエディもドレイクと比べると“負け犬”だ。もはや負け犬同士のコンビというわけだが、この二人には“俺ら”がいる。その圧倒的な関係性の違いが、最終戦で輝いていく。

 続編の予告編では、朝ごはんをヴェノムが作ってくれるシーンも。ますます二人の仲が良くなっていることが窺えるし、変な話、コロナでロックダウン状態にあっても寂しくないし退屈しなさそうで羨ましい。ますますヴェノムの有能な相棒っぷりが発揮されていて、思わず「自分にも寄生してくれないかな」と考えてしまうばかりの今日この頃である。

■放送情報
『ヴェノム』
フジテレビ系にて、8月7日(土)21:00~23:10放送
監督:ルーベン・フライシャー
脚本:スコット・ローゼンバーグ&ジェフ・ピンクナー、ケリー・マーセル、ウィル・ビール
出演:トム・ハーディ、ミシェル・ウィリアムズ、リズ・アーメッド、スコット・ヘイズ、リード・スコット
(c)&TM 2018 MARVEL

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