『100ワニ』『ポンポさん』 アニメ映画におけるオリジナルストーリーの意義
一方の『映画大好きポンポさん』(以下、『ポンポさん』)の原作は、杉谷庄吾【人間プラモ】が手掛けた漫画。2017年のpixivでの公開直後からまたたく間に口コミで広まり、その後KADOKAWAから単行本も発売。現在までにシリーズの単行本は6作が刊行されている。
物語は、映画制作が盛んな架空の街“ニャリウッド”を舞台に、敏腕映画プロデューサー・ポンポさんのもとで才能を見い出された製作アシスタントの青年・ジーンが、映画監督として抜擢され、同じく才能を見い出された新人女優のナタリーらと共に、映画撮影に打ち込むというものだ。
アニメーション映画版『ポンポさん』でも、原作にはない展開が描かれるのは主に後半。ひとつは、ジーンと同じ大学に通い、ジーンとは正反対の明るい学校生活を送り、卒業後は銀行員になった青年・アランに関する展開。それから、ジーンが制作中の映画『MEISTER』の再撮影のために奔走する展開だ。これらはいずれも、ジーンという主人公をより深く掘り下げるための改変と言える。
アランという、ジーンとは正反対の順風満帆な人生を歩んできた人物を配置することで、そうした人物でもジーンのような日陰者が“ただひとつ大切にしてきたもの”に心打たれ、生き方を変えることがあるかもしれないということが示される(それは映画『桐島、部活やめるってよ』で東出昌大が演じた菊池に起きた変化と似ている)。
そして『MEISTER』の再撮影では、この作中の主人公にジーンが自己のあり方を強く投影するという映画版で加えられた発想により「なぜほかのすべてを投げ売ってまで映画だけにすべてを賭けるのか?」という問いへの、本作なりの答えを描き出す。ここでの「映画」は、本作を鑑賞した者が、自らが大切にしている“譲れない何か”を投影するための器のような存在でもあるのだと思う。
アニメーション映画版『ポンポさん』には原作者の杉谷はほとんど関わっていないことが本人のTwitterなどから明らかになっている。上記の改変は、この映画の監督で、脚本も担当している平尾隆之による、原作で最も強く心を動かされた部分をより強調するためのものだと言えるだろう。
これによって、この映画はジーンという主人公により焦点が絞られ、原作とは少々異なるテーマに重心が置かれた作品に仕上がっている。しかし同時にそのテーマは『ポンポさん』だからこそ強く打ち出せたものでもあり、『ポンポさん』でなければならない、意義のある映画化でもあったと感じられる。
『100日間生きたワニ』も前半と後半を対比する構成から、本作の監督を務めた上田慎一郎の代表作『カメラを止めるな!』との類似性を指摘することもできるかもしれない。しかし、そこで描かれたのは原作が元々持っていたテーマを引き立てる物語であり、監督の感情や思い入れが強く反映された『ポンポさん』とは性質が大きく異なっている。
それでも、この2作はいずれも見事な映像化だったという点では共通している。ひとことで「優れた映像化」と言っても、そのアプローチも、正解も、作品によってまったく異なることをこの2作を通じて再認識させられた。
今後、原作の展開に大きな追加・改変が加えられた映像作品を観たときは、この2作を“ものさし”に、その「狙い」について考えをめぐらせてみると面白いかもしれない。
■公開情報
『100日間生きたワニ』
全国公開中
声の出演:神木隆之介、中村倫也、木村昴、新木優子、ファーストサマーウイカ、清⽔くるみ、Kaito、池⾕のぶえ、杉⽥智和、⼭⽥裕貴
監督・脚本:上田慎一郎、ふくだみゆき
原作:きくちゆうき『100日後に死ぬワニ』
コンテ・アニメーションディレクト:湖川友謙
音楽:亀田誠治
主題歌:いきものがかり「TSUZUKU」(Sony Music Labels)
製作:市川南、⼤⽥圭⼆
共同製作:藤川克平、中尾恭太、春⼭ゆきお、辻野学、五⽼剛
エグゼクティブプロデューサー:⼭内章弘、上⽥太地
プロデューサー:⾅井真之介、⼭中⼀孝
コンテ・アニメーションディレクト:湖川友謙
美術監督:徳⽥俊之
⾊彩設計:池⽥ひとみ
撮影監督:簡佳瑩
アニメーション制作:TIA
配給:東宝
製作:「100⽇間⽣きたワニ」製作委員会
(c)2021「100日間生きたワニ」製作委員会
公式サイト:100wani-movie.com
公式Twitter:@100waniMOVIE
公式Instagram:@100wanimovie