Netflixがコメディで苦戦? シットコムの衰退と配信作品ならではの難しさも
世界に2億人の有料会員数を抱えるNetflixが、先ごろオリジナルコメディシリーズ4作品の製作を打ち切ることを発表した。米Deadlineが報じたところによると、1シーズンで打ち切られるのは『カントリー・コンフォート 家族の歌』と日本では未配信の『The Crew(原題)』(ともに2021年)。さらに学園コメディ『Mr.イグレシアス』(2019年~)と、夜はSMの女王様として稼ぐ大学院生を描いた『ボンディング 男と女の事情』(2019年~)が、2シーズンで終了となる。
Netflixといえば、コメディでも『アンブレイカブル・キミー・シュミット』(2015年~2019年)や『フラーハウス』(2016年~2020年)、『グレイス&フランキー』(2015年~)などヒットシリーズを連発してきた。しかし今回の決定は、その勢いが落ちてきたことを思わせる。動画配信事業でほぼ一人勝ち状態のNetflixが、コメディ4作品を一斉に打ち切るという決断を下した背景には、どんな事情や課題があるのだろうか。
スタンドアップ・コメディ番組の配信と番組制作
現在日本のNetflixでは、約250作品のスタンドアップ・コメディのライブ番組を配信している。そのほとんどが、1人のコメディアンがマイク1本でステージに立ち、約1時間しゃべり続けるものだ。彼らのツアーのうちの1公演を撮影したものもあれば、最初からNetflixオリジナルとして企画されたものもある。どちらにせよ、日本でこうしたスタンドアップ・コメディが観られるのはNetflixだけなので、ファンも多い。スタンドアップ・コメディのレジェンドであるデイヴ・シャペルや『となりのサインフェルド』でも知られるジェリー・サインフェルド、『ジュマンジ』シリーズのケヴィン・ハート、『ハングオーバー』シリーズのケン・チョン、さらに近年はトーク番組の司会者としても人気のエレン・デジェネレスなど、錚々たる顔ぶれがそろう。また、アリ・ウォンをはじめとする女性コメディアンや、南アフリカ出身のトレバー・ノア、イギリスのリッキー・ジャーヴェイスなどのステージもあり、多種多様な笑いが提供されているのだ。
実はこのスタンドアップ・コメディ番組に出演しているコメディアンのなかには、Netflixのほかの作品製作にも関わっている人物も多い。人気コメディシリーズ『マスター・オブ・ゼロ』(2015年~)の監督、脚本、主演を務めるアジズ・アンサリのスタンドアップ・ショーは、現在Netflixで3本配信されている。また、今回打ち切りが決まった『Mr.イグレシアス』のガブリエル・イグレシアスのショーも、2016年の『ガブリエル・イグレシアスの空腹時は取扱注意』と2019年の『ガブリエル・イグレシアスのみんなにウケるショー』の2作品が配信中だ。
こうして見ると、Netflixがスタンドアップ・コメディアンのショーを多く製作する一方で、彼らに自社のコメディ作品製作に関わってもらいコンテンツの質を高め、人気を獲得しようとしているように思える。しかし『Mr.イグレシアス』が打ち切りになったように、そう上手くはいかないようだ。それは、ステージで1人で勝負するスタンドアップ・コメディの笑いと、コメディドラマの間にある溝を埋められなかったからではないだろうか。
『Mr.イグレシアス』を例にとって考えてみると、コメディアンの個性がシットコムの様式にあまりマッチしていなかったように思われる。同作で主演を務めたイグレシアスは、モノマネや声帯模写を得意とするコメディアンだ。彼が1人のステージでその技を披露する手際は、トーク自体の面白さと相まって観客を惹きつける。しかしそれは、ほかの共演者とともにひとつのストーリーを演じるシットコムでは、ほとんど使いどころがなくなっていた。番組自体の評価は悪くはないものの、そうした理由から再生回数が伸び悩んでいたのか、今回の決定が下されたのだろう。しかしNetflixは今後、イグレシアスとスタンドアップ・コメディ特番を企画しているとも伝えられており、またステージで彼がいきいきとジョークをくり出す姿が観られるのかもしれない。