佐藤健が“88年世代”で頭ひとつ抜けた存在となった理由 『るろ剣』を経て世界も視野に?

佐藤健、『るろ剣』を経て世界も視野に?

 とてつもなく異質な世界観にドライな雰囲気でなじんでいった『リアル〜完全なる首長竜の日〜』や、寂しげな過去を背負った作曲家を演じた『カノジョは嘘を愛しすぎてる』、余命わずかな主人公を演じた『世界から猫が消えたなら』。まだ若手俳優のポジションに収まっていたこの時期の役柄は、どことなく緋村剣心の延長線上にあるように思えてならない。一方で『バクマン』のような王道の青春劇、『亜人』でのアクション、そして『8年越しの花嫁 奇跡の実話』のような純愛劇と、与えられた役柄への柔軟な対応力は昔のまま、歳を重ねるにつれて得られる落ち着いた雰囲気を有意義に使いながらそのバリエーションをひたすら拡げていく。

 もちろん映画をメインフィールドにする俳優が、テレビの世界に来るだけで一気に作品のリッチさが増すというのは、両者の垣根がすっかりなくなった今でも確かにあるのだと、佐藤を見ていると実感する。しかもそれが女性主人公を引き立てる一歩引いた位置からの役ばかりとなれば、なおさらに好印象だ。NHK連続テレビ小説『半分、青い。』で演じた律という役柄は、最初から最後まで永野芽郁演じるヒロインの無軌道な魅力を裏打ちするために役割を果たし続けるし、『義母と娘のブルース』(TBS系)でもまた頼りなさげなコメディリリーフとして働く。そして社会現象を巻き起こした『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)の“魔王”天堂役でその人気を不動のものにするに至る。

 そうした円熟期を迎えたタイミングで、『るろうに剣心』が最終章を迎えた。同シリーズが始まるまでの数年間は“ライダー俳優”の称号を背負って地盤を固め、シリーズ中の約10年は“緋村剣心”という当たり役を抱えながら見事にキャリアを拡張したとあれば、ここから始まる“『るろ剣』後”に、客観的に見れば不安の要素は一ミリも感じない。その先陣を切るのは細田守監督のアニメーション『竜とそばかすの姫』であり、そこではインターネット上の世界で忌み嫌われる“竜”という謎の存在の声を担当する。その“竜”が抱える大きな傷の秘密が物語を動かすひとつのフックになるとなれば、ここもまた緋村剣心の延長線上にあるような、佐藤がもっとも得意とするタイプの役柄になりそうだ。

 それは10月に公開される『護られなかった者たちへ』も同様だ。ここでは東日本大震災という過去を背負った青年で、連続殺人事件の容疑者として阿部寛演じる刑事に追われるという役どころである。そして来年には宇多田ヒカルの楽曲を原案にしたNetflix映画『First Love 初恋』で満島ひかりとダブル主演。『るろうに剣心』が海外でも高い評価を獲得しているだけに、全世界に向けて放たれるNetflix作品に出演するというのはキャリアの途方もない拡大を予感させる大きなチャンスであることは言うまでもない。現時点でも1988年世代(1988年4月〜1989年3月生まれ)の男性俳優のなかで頭ひとつ抜けた存在である佐藤。その狭いテリトリーを易々と飛び越え、羽ばたいていく姿は想像に難くない。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』
全国公開中
出演:佐藤健、有村架純、高橋一生、村上虹郎、安藤政信、北村一輝、江口洋介
原作:和月伸宏『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督・脚本:大友啓史
音楽:佐藤直紀
主題歌:ONE OK ROCK「Broken Heart of Gold」
制作プロダクション・配給:ワーナー・ブラザース映画
製作:映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
(c)和月伸宏/ 集英社 (c)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
公式サイト:http://rurouni-kenshin.jp
公式Twitter:https://twitter.com/ruroken_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/ruroken_movie/

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