評論集『脚本家・野木亜紀子の時代』
『重版出来!』が描いた“出版・書店業界のリアル” 藤原奈緒がお仕事ドラマとして読み解く
安井(安田顕)や菊地(永岡佑)ら編集者たちの運命を変えることになった、雑誌「コミックFLOW」の廃刊決定の際、廃刊を決めた役員が「自分が作った雑誌だから、俺の墓標と思って胸に抱いて死んでいくよ」と言った。その時、安井は「酔ってんじゃないよ、時代に恵まれていただけだろう。雑誌はあんたの墓標なんかじゃない」と激高する。
これは原作の松田、脚本の野木両方に言えることだが、彼女たちは常に「今を生きる人」の味方である。それは松田が描く『重版出来!』が今も変わらず出版業界の「今」を反映し、常に新しい挑戦を描き続けていることからも分かる。野木は、『MIU404』(TBS系)において、SNSを使って見事にドラマと視聴者をつなぎ、さらに最終回でコロナ禍の「現在地」に着地してみせることによって、混乱する今を生きる人々にエールを送った。また、『罪の声』における、かつて「奮い立った過去」のみを抱き生きている、宇崎竜童演じる男を、塩田武士による同名原作にない「化石(fossil)」という言葉を使ってまで辛辣に批判したことからも見て取れる。
本作は、かつての栄光の面影もなく、時間が止まったままで、今を生きることのできない牛露田のような男の悲哀も描くが、「昔は良かった」ではなく、立ち止まらず、現実と向き合い、いつになっても挑戦し続ける人々の姿を描く。最終回が、新しいものへの興味関心が止まらない巨匠・三蔵山(小日向文世)の新たな挑戦に皆が驚愕する回であったように。「今ここで、私らは生きていかねばならんでしょう」という、和田の言葉が、当時よりももっと混沌とした、先の見えない今を生きている私たちの心を揺り動かす。
……続きは本書にて。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。Twitter
■書籍情報
『脚本家・野木亜紀子の時代』
著者:小田慶子、佐藤結衣、田幸和歌子、成馬零一、西森路代、藤原奈緒、横川良明
発売日:7月20日(火)予定
ISBN 978-4-909852-17-5
仕様:四六判/256ページ
定価:2,750円(本体2,500円+税)
出版社:株式会社blueprint
予約/購入は以下より
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