『重版出来!』は出版業界をどこまでリアルに描いている? コミック誌カリスマ編集者が分析

 黒木華主演ドラマ『重版出来!』(TBS系/毎週火曜22時〜)は、週刊コミック誌「週刊バイブス」の新米編集者・黒沢心が、一癖も二癖もある漫画家や編集部員、営業担当、書店員たちを巻き込みながら、初版と同じ版を使い、同じ判型、装丁にて刷りなおす“重版出来”を目指す模様を描く、いわゆる“内幕モノ”だ。これまで出版界の内側を描いた物語は数多く作られてきたが、本作は特にリアリティがあると、出版業界人の間でも評判だという。実際のところ、どこまでリアルに描かれているのか。数々の人気作品を手がけてきた、講談社「週刊少年マガジン」編集部・伊香淳一氏に話を聞いた。

「まず、机の配置やポスターの貼り方、雑然としているデスクの感じなど、セットがかなりリアルですね。我々も書店用のポスターを制作したら編集部に貼るんですが、そういう細かいところもわざわざドラマ用に特別に作っていて、しかもその数がやたら多い。衣装もよくできていて、黒木華さん演じる主人公・黒沢心だけは華やかな服装ですが、それ以外の登場人物はいかにも出版社らしいラフな格好です。私が所属している編集部を見渡してみても、ボタン付きのシャツを着ている人もいれば、ポロシャツの人もTシャツの人もパーカーを着ている人もいる。そういう意味でも漫画編集部の再現度は相当高いと思います」

 もっとも、第2話で描かれた営業部と編集部の対立については、誇張している部分もあると同氏は続ける。

「坂口健太郎さん演じる営業部員の小泉純と、生瀬勝久さん演じる岡英二という営業部員の人たちが出てきますが、彼らがキチッとしたスーツを着ているのも“出版社あるある”ですね。ただ、編集部と営業部の対立は、まったくないとは言えないものの、ドラマとして誇張しているように感じました。対立軸を作ると、物語になりやすいですからね」

 漫画家と編集者の関係性の描き方については、次のように指摘している。

「漫画家さんから連絡がなく、アポなしで家に行ったりするのは、かなり稀なケースだと思います。実際は皆さん電話なりメールなりLINEなり、きちんと返してくれますから。漫画家さんは一般的にイメージするほど変人が多いわけではないんです(笑)。ただ、彼らも十人十色ではあるので、担当編集も漫画家さんにあわせてケースバイケースでやるしかないのは事実。第3話では、締め切り直前になっても滝藤賢一さん演じる高畑一寸からネームがこないという話が描かれましたが、あの場面は緊張感があって面白かったです。予定されていた時間にネームがこない時って、やっぱり原稿が落ちてしまうんじゃないかって、最悪の事態を考えるわけです。だから、ちゃんとネームがきたら担当編集はホッとするんですけど、黒沢はそこで『面白くない』とボツを出す。自分がボツを出したことによって、原稿が落ちてしまう可能性があるという不安と戦いながらも、ああいう決断に至るという切実な流れはリアルでおもしろかったです。あと、オダギリジョーさん演じる副編集長の五百旗頭が、『アオリは、編集者から漫画家へのメッセージでもある』と言いますが、じつは、私も若い頃に先輩からまったく同じ言葉を言われたことがありました。まぁ個人的には、アオリは読者向けに書くべきだと思っていますが」

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