『インフィニット ダークネス』は『バイオ』シリーズの新境地に 監督&Pに聞く製作の裏側

Netflix『バイオハザード』製作の裏側

 7月8日より全世界同時配信された、Netflixオリジナルアニメシリーズ『バイオハザード:インフィニット ダークネス』。2000年に内戦中のペナムスタンで起きたある事件が、6年後のホワイトハウスの極秘ファイルへの不正アクセス事件へと繋がっていく。捜査のためホワイトハウスに召集されたレオン・S・ケネディは、福祉施設建設の陳情に訪れたクレア・レッドフィールドと偶然の再会を果たし、やがて恐ろしい真相にたどり着いていく。

 これまで様々なアニメ作品を生み出してきたトムス・エンタテインメント、『バイオハザード:ヴェンデッタ』で制作プロデューサーを務めた、宮本佳率いるQuebicoがフル3DCGアニメーション制作を担当。さらに、様々なジャンルで活躍を見せる菅野祐悟が音楽を担当するなど、錚々たるメンバーが集結した本シリーズ。今回、『海猿』シリーズや『MOZU』シリーズ、『太陽は動かない』などのヒット作を手がけてきた本作の監督・羽住英一郎監督と、本作で製作・原作監修を手がけ、数々の『バイオハザード』シリーズを世に送り出してきた、カプコンの小林裕幸プロデューサーに、本作の製作過程などについて話を聞いた。

レオンを描くにはちょうど面白い時間軸

ーー今年25周年を迎えた『バイオハザード』シリーズ。これまでを振り返ってみて、2人が感じるシリーズの魅力からお聞かせください。

小林裕幸(以下、小林):1996年にPlayStationから発売された『バイオハザード』1作目から関わっていて、それがデビュー作でもあるため非常に思い入れが強いです。1作目を作っているときはこんなに長く続くシリーズになるとは思わなかったので、本当に光栄です。世界中に『バイオハザード』のファンがたくさんいることも本当に幸せなことですし、頑張った甲斐があるなと思います。今回、羽住監督と作り上げた新しい映像作品も早く観てほしいです。

羽住英一郎(以下、羽住):僕はゲームをやる人間ではありませんが、もちろん『バイオハザード』の存在は知っていました。周りの友達が「怖え、怖え」って言いながらプレイしていましたから。長い歴史がある、そんな『バイオハザード』の作品に今回初めて飛び込ませてもらって、知れば知るほど、すごくファンを大事にしていると感じました。ゲームと映像作品が破綻しないように、しっかりと整合性がとれている長い年表があり、すべて同じ地続きでキャラクターと出来事が繋がっているっていうのが、改めてすごいと思いました。そこに人気の秘密を垣間見た気がしましたし、大勢の方々の間でこれからもずっと広まっていくし、ファンも離れていかないんだろうなと感じます。

ーー今、監督が話した年表という意味でいうと、『バイオハザード:インフィニット ダークネス』は時系列的には映画『バイオハザード ディジェネレーション』(2008年公開)と『バイオハザード ダムネーション』(2012年公開)の間を描く作品かと思います。両作品との繋がりなど、どのように意識して作られたのでしょう?

羽住:確かにその2作品の間ではありますが、ゲームを含めての全体の歴史の中で考えているので、『ディジェネレーション』の続きとか『ダムネーション』の前、というのは正直あんまり意識していなくて。それ以上に、『バイオハザード2』(PlayStation/1998年)のラクーン警察・新人警官のレオンと、『バイオハザード4』(ニンテンドーゲームキューブ・PlayStation2/2005年)の合衆国エージェントのレオン、映画『バイオハザード:ヴェンデッタ』(2017年)でのレオンをそれぞれ意識した上での、本作です。ゲーム作品のファンが多いことも意識し、それを大事にして劇中の年代を「2006年」に設定しました。

小林:レオンとクレアの物語になることは、監督が確定する前から決まっていました。『バイオハザード』の世界観は年表がしっかりしていて、なかなか自由に描けるところと描けないところがあります。そんな中、ラクーンシティの新米警官に比べて、『ヴェンデッタ』のレオンは長い悪との戦いに疲れて、飲んだくれていたりして。そのちょうど間くらい、エージェントになりたての頃を、サスペンスとドラマを前面に押して描くものとして、本作に着手しました。また、バイオテロや薬害被害者の救済を行うNGO団体テラセイブの職員・クレアとのドラマでは、ある意味すべて起きたことを公表すればいいという正義感だけではやっていけない。見ようによっては隠蔽する側になってしまうかも知れないけど、正義のためには大人の事情を汲んだ世界に入っていくレオンを描くにはちょうど面白い時間軸なのかなと思います。ラクーンシティでの大変な出来事をともに経験した2人の間には、非常に同士的な繋がりがある。それでもちょっと違う側面というか、青春ものでいうと学生時代の青春が終わって社会人になって違う道を歩きだしてしまう感じ。本作でレオンがスーツを着ているのも、その象徴です。

ーー確かにスーツを着たレオンに、クレアが「似合っていない」というシーンがあって、すごく、納得しました。

小林:レオンは僕が一番好きなキャラクターなので、毎回フルCG長編アニメーション作品には登場している……というかお願いさせてもらっているんですけど。やはりレオンは素敵というか、かっこいいけど憎めないというところがあって。時系列の間を描くうえで、すでに未来を作ってしまっているので、そのレオンと整合を取れるような調整をしています。あんまり、 『ヴェンデッタ』のレオンに寄りすぎてもダメだし、新米警官みたいに若々しい、正義面しすぎるのもダメだし。その調整が大変でしたが、結果うまく描けて、新しいレオン像を出せたかなと思います。

羽住英一郎監督

ーー特にレオンが本作で“Fear(恐れ)”と“terror(恐怖)”に対峙する上で、現実世界でも起こりうる問題になっているものが取り上げられている点にメッセージ性を感じました。

小林:ゲームでは、なかなか政治色を強くしたり会話劇を長めにすることができません。ゲームを遊んでくれる方はすぐ自分でプレイしたいし、敵と戦ったり探索したいので。しかし、本作は映像作品なので、キャラクターたちがじっくり語り合える。なので、おっしゃっていただいたように、第2話でレオンと新キャラクターの元アメリカ陸軍の特殊部隊の隊⻑・ジェイソンが「FearがTerrorになる」について語るシーンも含めて、普段のゲームにもない、今までと違う『バイオハザード』を作れたなと、自分では思います。

羽住:ネタバレになるかも知れませんが、もともとある人物が世界中に目撃させることによって拡散しようとした恐怖を、最終的にレオンが1人で抱え込むことになってこの話が終わります。そこは主人公として大変な重荷を背負わされる物語でもありますが、だからこそ、最近の作品のレオンの疲れ具合を知っている人からすると「レオンってこんな経験をしてたんだ」と辻妻があって面白いと思います。

ーー本作ではそんなレオンのアクションも見どころになっていますが、監督は初のフルCGアニメを監督されて、演出や構成、アクションの動きにおいて実写作品とどのような違いを実感しましたか?

羽住:レオンの身体能力に関しては、事前に小林さんから「トム・クルーズが演じるキャラクターができるくらいのアクションは全てできると思って問題ないです」って言われてたので、めちゃくちゃ動けるやつだなって思っていました(笑)。ただ、実際フル3DCGとはいえ、モーションキャプチャで撮影しているので、俳優さんのアクションを撮るという意味では、本質的にはあまり実写と変わりませんでした。でも、レオンはタフですよね。

小林裕幸プロデューサー

ーー特に潜水艦の中で彼の身体能力だけでなく頭脳も使って“ネズミゾンビ”を一網打尽にしていたシーンの迫力が凄まじかったです。「バイオハザード」シリーズはこれまで犬やワニなど、作品に欠かせない“バイオハザード・アニマル”的な存在がありましたが、今回どうしてネズミに?

小林:「潜水艦で何出す?」という話になり、第1話でゾンビを出したから、第2話で潜水艦の中で人がゾンビになるのは芸がないというか面白くないので、ネズミを大発生させたんですよ。狭いところで小さい生き物が大発生って怖いというか、嫌ですよね、逃げ場がないですし。

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