バトル以外の内容が“ほぼ無い”『ゴジラvsコング』 モンスターバースでの位置付けを考察
とはいっても多くの観客が、監督の個性が突出していた前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』に良い反応を見せなかったことが、この方針転換の主要因になっているのは確かだろう。超大作映画は、一作だけで数百億円規模の大金が動く大事業である。たとえ『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が、作品として未知の領域を切り拓くものだったとしても、本シリーズのように会社の経営に多大な影響を及ぼすレベルになってくると、「次につながるさ」と悠長なことを言っているわけにもいかないはずだ。かくして『ゴジラvsコング』は、怪獣バトルをとにかく派手に演出するかたちに作り変えられたのだと考えられる。
その根拠の一つに、小栗旬の演じた役の不自然さが挙げられる。“芹沢”の姓を持つ彼のバックグラウンドは劇中で説明されず、思わせぶりな雰囲気を醸し出している割に、とくに活躍するわけでもないのだ。これは、作品を怪獣の戦いに集中させるために、いったん完成した後に脚本が書き直されたことで、異物として中途半端に残ってしまった部分の一例だろう。
興味深いのは、ここまで潤沢な予算と十分な時間が用意されていたビッグプロジェクトにもかかわらず、いや、ビッグプロジェクトだからこそ、一本の映画作品としては不完全な状態になってしまうことがあるという事実だ。本作が娯楽性の方向をシンプルに定め直したことで、より興奮できるバトルが演出できているのは、おそらく確かなことなのだろう。そして、興行的な成功を果たしたことで、その試みは正しかったのだともいえよう。だが同時に、監督の持ち味や、作品の独創性が軽視され、アンバランスな部分を持つものになったことについては、個人的に残念だと感じられるのである。
本作は、いったん「モンスターバース」を終了させる作品として作られたが、本作『ゴジラvsコング』の興行的な成功によって、シリーズは存続する方向で動いているという。それ自体は、もちろん怪獣映画ファンとして歓迎すべきことだ。しかし、一方で悩ましいのは、これまで超大作でありながらも監督の個性を前面に押し出し、ある種エキセントリックな魅力を発揮していた「モンスターバース」は、今回の成功を受けたことで、違う路線に進むのかもしれないということだ。いまだシリーズ継続は確定していないが、いずれにせよ、『ゴジラvsコング』は、一つの時代に区切りをつけるものとなったのではないだろうか。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『ゴジラvsコング』
全国公開中
出演:アレクサンダー・スカルスガルド、ミリー・ボビー・ブラウン、レベッカ・ホール、ブライアン・タイリー・ヘンリー、小栗旬、エイザ・ゴンザレス、ジュリアン・デニソン、カイル・チャンドラー、デミアン・ビチル
監督:アダム・ウィンガード
脚本:エリック・ピアソン マックス・ボレンスタイン
製作:レジェンダリーピクチャーズ ワーナーブラザース
配給:東宝
(c)2021WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.