『おおかみこどもの雨と雪』に見る、細田守の細部へのこだわり 宮崎あおいら声優にも要注目
細田のメッセージは「おかあさんの唄」に集約
また、細田監督のこだわりが感じられるのは、雨と雪の幼少期の表情や、田舎の風景だ。幼少期の雨と雪はやんちゃでどこかコミカルにも見えるが、予測不可能な動きがかえって子どもらしい。雨と雪が、雪山で興奮を抑えきれず転げ回るようシーンなどその躍動感は見応えがある。また田舎の風景描写は実に細かく、懐かしさがこみ上げてくるとともに、思わずあるあるとうなずいてしまうだろう。雨が、狼の“先生”と過ごす森の風景、森に降る雨の情景など描写の細かさには頭が下がる。
“おおかみこども”という設定はファンタジックではあるが、テーマはあくまでも「親子」だ。子どもはわがままを言ったり急にぐずったり泣き止まなかったりするもの。おおかみこどもはそのメタファーで、そんな小さきモンスター=子どもと正面からぶつかっていく母親の姿が生き生きと描かれている。細田自身が作詞を手がけ、アン・サリーが歌った主題歌「おかあさんの唄」は、それを実に象徴している。細田は楽曲の方向性として作曲の高木正勝に、『ニュー・シネマ・パラダイス』や『海の上のピアニスト』などで有名な映画音楽の巨匠で、愛妻家としても知られるエンニオ・モリコーネを例として伝えたそう。高木はこれを、女性を讃える歌と理解し、自分の母親の若い頃や、母親と一緒に歌っているイメージを膨らませて作ったのが「おかあさんの唄」だ。最初は歌で始まり、徐々にピアノやストリングスが加わり、最後はまた歌で終わっていく。花を通した物語が、この1曲に集約されている。
細田監督作品には、家族が多く描かれてきた。『サマーウォーズ』では、親類縁者がひと所に集まり住む田舎の原風景を描いた。そこで描かれた絆は、『おおかみこどもの雨と雪』でシングルマザーや田舎の近所付き合いといったものに形を変え、そこからさらに『バケモノの子』や、『未来のミライ』へと繋がっていく。『金曜ロードショー』では7月9日に『バケモノの子』、7月16日に『サマーウォーズ』を放送。細田監督が描く様々な家族と絆の在り方に、きっと心を揺さぶられるだろう。
※宮崎あおいの「崎」は「たつさき」が正式表記。
■榑林史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。
■放送情報
『おおかみこどもの雨と雪』
日本テレビ系にて、7月2日(金)21:00〜23:19放送
※放送枠25分拡大、本編ノーカット
監督・脚本・原作:細田守
脚本:奥寺佐渡子
キャラクターデザイン:貞本義行
音楽:高木正勝
企画・制作:スタジオ地図
声の出演:宮崎あおい、大沢たかお、黒木華、西井幸人、大野百花、加部亜門、菅原文太
(c)2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会