社会構造が生んだ歪みに一撃を加えるヒーロー誕生 『Mr.ノーバディ』の生々しいアクション

『Mr.ノーバディ』の生々しいアクション

 凄腕の元殺し屋が1人で犯罪組織に立ち向かう、キアヌ・リーブス主演のアクション快作『ジョン・ウィック』シリーズ。その脚本家デレク・コルスタッドと、プロデューサーのデヴィッド・リーチが、『ジョン・ウィック』の変奏といえるハードアクションを新たに創造し、ボブ・オデンカークが“誰でもない(ノーバディ)”復讐者を演じるのが、本作『Mr.ノーバディ』だ。

 とにかくアクションの生々しさが面白い。『ジョン・ウィック』のキアヌの動きが、相手を殺傷する説得力を持ちながらも、華麗な動きを見せていたことを考えると、オデンカークのアクションは、あくまで泥臭く、自身も相応のダメージを負いながら敵を打ち倒していくリアリティが魅力である。

 オデンカーク演じる主人公ハッチは、妻と2人の子どもを持つ平凡な中年男として登場する。家と勤め先の工場を往復する単調な毎日を送っているハッチだったが、自宅に強盗が侵入したことをきっかけに、次第に平凡な男ではいられなくなってしまう。このハッチという人物、過去に何やらワケがあるらしいのだ。

 ハッチが真に覚醒するのは、バスに乗り込んできたチンピラ風の若者たちが女性の乗客に乱暴を働こうとしたときだ。彼は自身の拳銃からわざと弾を抜いて見せ、“お前たちを素手でぶちのめす”と、挑発する。そこから多勢に無勢の状況のまま、拳での殴り合い、ナイフを奪い合っての刺し合いなど、停車中の狭い車内で陰惨な戦いが繰り広げられる。チンピラたちは歯を折られ鼻が折れるなど、平凡な中年男から予想もしていなかった反撃を喰らって、その強さと執拗さ両方に、心底恐怖を覚えることになる。

 戦闘の途中で、勢い余ってバスの窓をぶち割って外へ飛び出してしまったハッチ。傷だらけ血だらけの身体で路上から起き上がると、再び乗車口からバスの中に入り、地獄の第2ラウンドを始めようとする。このシーンの痛快さは、数多くのアクション映画の中でも傑出しているといえよう。

 ハッチが傷だらけで奮戦する場面に、尋常でなく熱気がこもるのは、そこまでのシーンで積み重ねられた、平凡な男の苦役のような毎日の描写があってこそだろう。ハッチは家族のために毎日の仕事をこなしているにもかかわらず、妻や息子からは侮られ、職場でも義弟にバカにされ、プレッシャーをかけられていた。だからこそ、ハッチが野獣の本能を覚醒させる瞬間には、一種のカタルシスが存在する。そしてハッチは、この乱闘を機に、むしろ嬉々として危機に飛び込んでいくようになる。

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