キャラ描写×自然な演技による“生っぽさ” 『SSSS.DYNAZENON』の芝居的な面白み

キャストの自然な演技

 そんな脚本や設定の妙を声として作品に落とし込み、説得力を持たせるのがキャストたちの演技だ。アニメ作品全体で言えば、声や息遣いだけで表現する声優と、表情や立ち姿も含む全身で表現する実写の俳優という違いによって生まれる差異から、アニメファン以外から「わざとらしい」と決めつけられてしまいがちなのが悲しい現状。その点で、ある種アニメと実写の映像作品との中間に位置するとも言えるような芝居の「GRIDMAN UNIVERSE」のような作品は非常に稀有だ。

 それは、実際にキャスト同士が掛け合いで演じなければ成立しないような会話シーンの多さが、一つの大きな理由となっている。昨今では以前にも増して声優自体への知名度も上がっており、『DYNAZENON』では蓬役、『呪術廻戦』では主人公・虎杖悠仁役でも知られる榎木淳弥が先日『踊るさんま御殿』(日本テレビ系)に出演したことも話題になるなど、TVのバラエティ番組での露出機会も急増している。そんな人気声優同士のスケジュールを合わせて収録時間を確保するのは至難の業で、やむなく掛け合いのシーンを別録りにするケースも。

 加えて、コロナ禍以降は感染防止対策として収録スタジオのブース内に入る人数が限られるため、同じシーンに出演するキャスト同士でも別録りになる場合がある。しかし、掛け合いだからこそ生まれる演技もあり、コロナ禍以降、この点は多くのメディアで声優が嘆いているポイントでもあるのだ。だからこそ、生っぽい芝居が掛け合いでしか生まれない空気感や熱量で展開される「GRIDMAN UNIVERSE」のようなアニメ作品は、現在ではさらに貴重だと言える。

『SSSS.DYNAZENON』の声の演技の生っぽさ

 自然な演技を大事にしている点は、インターネットラジオステーション「音泉」で配信されている作品の公式ラジオ「アニメDYNAZENON ラジオ よもゆめインパーフェクト」で、パーソナリティを務める蓬役・榎木淳弥と、夢芽役・若山詩音もしばしば語っている。『DYNAZENON』ではテープオーディションの段階から、受けたいキャラの芝居に加え、フリートーク1分・一人芝居2本があったという。演技の中で自然に話す技量に、非常に重きを置いていることが窺えるオーディション形式だ。

 「よもゆめインパーフェクト」第6回にゲスト出演した暦役・梅原裕一郎は、オーディション要項から恐らく自然な演技を求められていると察してオーディションに臨んだ様子。その後発表されたキャストに榎木がいたため、「『あーなるほどな、そっちね』『そのお芝居ね』みたいなのがあったから、あんまり作らないように」と、自然な喋りの演技の方向性を見定める指針になったと語っていた。榎木本人は「よもゆめインパーフェクト」第8回で収録現場について、「みんな自然な喋りを目指してるから、毎回アフレコが怖いんですよね(笑)」と、一定の緊張感を持ちつつ楽しんで収録に臨んだ様子を振り返っている。また、ほぼ地声で演じているキャストが多いことも、自然に演じやすいポイントだという。

 そんな榎木は、自然な演技のキャストが多い「GRIDMAN UNIVERSE」の中でも、特にキラリと光る演技派の一人。蓬役でも様々なシチュエーションがあり、風邪を引いた鼻声だったり、他の仲間を助けるために振り絞るような叫びを出したり、自身の想いを告げるシーンで、直球で混じり気のない声をスッと出したりと、様々な演技の引き出しで魅せている。また、別番組で榎木がパーソナリティを務めるSpotifyオリジナルPodcast「呪術廻戦 じゅじゅとーく」第18回では、ゲストの島崎信長も榎木の演技について語っている。「飾らず剥き出しのままのものを整えずに出している感じがあって、それがもうすごいの!」「いま榎木くんみたいな芝居でガンガン前に出ている人っていない」と熱弁。先述の梅原も語っていたように、榎木の自然な演技の魅力は、同年代の声優の間でもひときわ存在感を放っているようだ。

 「キャストの自然な演技」、そしてそのベースとなる「共感性が高い設定・リアリティを織り交ぜた描写」との相乗効果で、唯一無二の生っぽさが魅力の「GRIDMAN UNIVERSE」。『SSSS.GRIDMAN』も含め、TVアニメは各ストリーミングサービスで配信されている。また、先述のボイスドラマもまだ公開中のものもあり、これから急いで追いつこうかという方も、まだまだ充分楽しむことができるタイミングと言える。

 更にユニバースにどっぷり浸かるには、「ジャンプ+」にて連載中の『SSSS.GRIDMAN』コミカライズや、『くらげバンチ』連載中の公式スピンオフ漫画『グリッドマン・ドグマ』など、アニメ以外にも現在進行形のメディアミックス作品がある。また、『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』は、ベースとなった特撮ドラマ『電光超人グリッドマン』を知る入り口となることを目的の一つとしていると、雨宮監督はしばしば語っている。未見のファンも、リアルタイムで視聴しているファンも、これを機に改めて『電光超人グリッドマン』から観てみると、さらに「GRIDMAN UNIVERSE」を堪能することができるはず。

 いよいよ6月18日22時より放送される『SSSS.DYNAZENON』最終回に向かって、TVの前でバトルゴー!!

※島崎信長の「崎」は「たつさき」が正式表記

■桜見諒一
パブリシスト / 国内外の実写・アニメーション映画を中心に幅広い作品の宣伝業務を行う傍ら、2021年よりライター活動を開始 / Twitter

■放送情報
『SSSS.DYNAZENON』
MBS、BS11、TOKYO MXにて、毎週金曜深夜に放送中
原作:グリッドマン
監督:雨宮哲 
脚本:長谷川圭一 
キャラクターデザイン:坂本 勝
サブキャラクターデザイン:中村真由美
ダイナゼノンデザイン:野中剛
色彩設計:武田仁基 
美術監督: 権瓶岳斗
音楽:鷺巣詩郎 
声の出演:濱野大輝、榎木淳弥、若山詩音、梅原裕一郎、安済知佳ほか
アニメーション制作:TRIGGER 
(c) 円谷プロ (c) 2021 TRIGGER・雨宮哲/「DYNAZENON」製作委員会 
公式サイト:https://dynazenon.net/
公式Twitter:@SSSS_PROJECT

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる