清原果耶が体現する“普通の”朝ドラヒロイン 一瞬の映像にも気を抜けない『おかえりモネ』
これまでの朝ドラであれば、次にモネが目指すのは音楽の世界だっただろう。子供の頃から楽器に触れ、大好きで、1度は高校で専門的に学ぼうとした音楽。だが、彼女にとっての音楽は、自分と島の人々を「その場にいなかった者」と「言葉にできない体験をした者」とに引き裂く存在になってしまった。2011年の夏、「これから、なんじゃないかな、って思うんだよ。音楽とかが大事になってくるの」と語る耕治にモネは答える「違うよ、お父さん。音楽なんて何の役にも立たないよ」。
傷を癒すこと、再び立ち上がること、そして再生。『おかえりモネ』ではその過程が静かに、丁寧に描かれる。特殊な才能を持つわけでも、底抜けに明るい性格でも、皆にちやほやされるわけでもない「普通」の10代が、どう自らの傷と向き合い、それを乗り越えていくのか。特別でないからこそ、彼女の動線はとてもリアルだ。
ルーティン、時計代わりとして視聴する人も多い朝ドラ枠で、丁寧に見ないと伝わらないことも多い『おかえりモネ』のような作品を放送するのはひとつの賭けかもしれない。だが、2021年の今、言葉にできない閉塞感の中、2011年を経たモネが真っ直ぐ静かな日常を生きる姿に心打たれずにはいられない。
人目を引く才能を持たず、姫でもなく、かといって虐げられる者でもないヒロインが、これからどう自らを癒し、選んだ道を歩んでいくのか。そして彼女の傷のひとつである音楽とまた向き合う時は来るのか。さまざまなメッセージを受け取りながら丁寧に向き合っていきたい朝ドラだ。
■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK