メリッサ・マッカーシーがスーパーヒーローに 『サンダーフォース』は女性の価値観を刷新

女性の価値観を刷新する『サンダーフォース』

 探偵、刑事、国際スパイなど、近年コメディー映画のなかであらゆる役を演じてきた、メリッサ・マッカーシー。そんな彼女が、ついにスーパーヒーローを演じるのが、本作『サンダーフォース ~正義のスーパーヒロインズ~』である。監督・脚本は、公私ともにメリッサ・マッカーシーのパートナーであるベン・ファルコーンだ。

 “コメディアン”、“ヒーロー”の女性版を“コメディエンヌ”、“ヒロイン”という言葉に言い換える表現が、本作の邦題にも見られるように、メリッサ・マッカーシーは、これまで男性が基本とされてきた役割をぶち壊し、アダム・サンドラー同様に表現者としての魅力によって多くの観客を呼べる存在となった。『ある女流作家の罪と罰』(2018年)では、シリアスな演技でアカデミー賞主演女優賞にノミネートまでされた彼女だけに、彼女が本作で強大なパワーを持ったスーパーヒーローを演じるということは、象徴的であるといえる。

 サンドラ・ブロックやジェイソン・ステイサム、ときにマペットなど、様々な共演者との組み合わせによる化学変化も楽しみなマッカーシーのコメディー映画だが、今回、彼女の相棒を務めるのは、幅広い役柄で人気を集め、大きな瞳が印象的なオクタヴィア・スペンサーだ。アカデミー賞助演女優賞を獲得しているなど、実力と人気を兼ね備え、役を自由に選べるだろうスペンサーが、コメディー映画でマッカーシーの相棒を務めるのだから、アメリカでいかにコメディー作品が愛されているかが分かる。

 本作で、大都市シカゴを舞台に繰り広げられるのは、スーパーパワーで街を破壊する犯罪者“ミスクリアン”と、科学の力でスーパーヒーローとなった二人の女性の戦いである。子どものときに両親をミスクリアンに殺害されたエミリー(オクタヴィア・スペンサー)は仇を討つことを決意し、自らがスーパーヒーローになるべく、巨大企業を経営しながら日夜ヒーローになる研究を重ねていた。

 そこに現れたのが、小学生の頃にエミリーをいじめっ子から助けたことで親友になったが、生き方の違いから長い間疎遠になっていたリディア(メリッサ・マッカーシー)だった。お騒がせ者のリディアは、誤って研究所で自分にスーパーパワーを授ける科学物質を注入してしまう。かくして、リディアは人の限界を超えた怪力を手にし、エミリーは透明化という特殊能力を自分のものとするのだった。そして彼女たちは、スーパーパワーで悪を行う者たちを成敗するチーム、“サンダーフォース”を結成する。

 本作のテーマが分かりやすく凝縮されているのは、彼女たちの小学生時代のエピソードだ。幼いエミリーはいじめっ子の男子同級生から「ガリ勉」と揶揄され危害を受けるが、体格の良いリディアがいじめっ子を力でねじ伏せてエミリーを救出。それ以来、二人は親友になったのだ。二人は性格も趣味も異なるが、自分らしく生きたいと願う共通点がある。だからこそ二人は共闘し、人々を抑圧する世の中の理不尽な暴力に、ヒーローとして対抗するのだ。

 そう聞くと、ありがちな作品だと思われてしまうかもしれない。だが、コメディー作品でありヒーロー作品である本作が、世の中の理不尽と戦うという内容を描くとき、一つの暗い背景が浮かび上がってくる。それが、女性キャストたちでリブートされた『ゴーストバスターズ』(2016年)が巻き込まれた差別問題だ。この映画の監督は、メリッサ・マッカーシーとは何度も組んでいるポール・フェイグである。

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