『きれいのくに』に滲む作家・加藤拓也の底知れなさ “10代”と“夫婦”、2つの得意手

『きれいのくに』加藤拓也の底知れなさ

 『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)の坂元裕二、『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK総合)の渡辺あや、『コントが始まる』(日本テレビ系)の金子茂樹と、今期は作家性の高い脚本家が揃って名作を生み出し、連ドラを盛り上げている。その中で、若手ながら独自の世界をつくり上げているのが、よるドラ『きれいのくに』(NHK総合)の加藤拓也だ。

 『きれいのくに』の舞台は、美容手術により20代から50代の約8割――つまり4900万人もの大人がトレンドに合わせて顔を変えてしまった不気味な世界。ほとんどの大人たちが同じ顔をしているこの国では10年前に美容手術が禁止され、10代の子供たちはオリジナルの顔で生活をしている。そんな大人と子供が「顔」によって分断された社会で生きる高校生たちの青春を描いたのが、この『きれいのくに』。加藤拓也が全話の脚本を手がけるオリジナル作品だ(一部、演出も担当)。

狭い檻に閉じ込められた、高校生の恋模様

 主要な登場人物は、元野球部の誠也(青木柚)とその隣の家に住んでいる凜(見上愛)、パパ活をしているれいら(岡本夏美)とよく周囲を見ている貴志(山脇辰哉)、そして両親が遺伝子操作したことにより子供もながら大人たちと同じ顔をしている中山(秋元龍太朗)の5人だ。

 この世界は、ほとんどの大人が同じ顔をしているだけでなく、もうひとつ奇妙なところがある。それが、非常に限定的な環境で子供たちが生きていることだ。誠也らが通うのは、ゐつき市立小中高一貫教育校。下足室には「初等部」「中等部」「高等部」というプレートがあり、小・中・高生がみんな同じ校舎に通学していることが窺える。入学時の記念写真で、子供たちの数は12人。高校の教室の机の数も12であることから、おそらく学年の人数そのものが12人であり、クラス替えをすることなく、誠也らは小学1年生から現在まで過ごしてきたと思われる。

 実際、誠也ら5人は小学生の頃から仲が良く、誠也は長らく凜に好意を寄せているようだが、コミュニティの狭さがブレーキになっているのだろうか、周囲にはその感情をひた隠しにしている。一方で、れいらも小学生のときに誠也にキスをしたことがあり、現在はもう特別な感情はないという素振りをとっているが、本音はわからない。誠也に淡い恋愛感情を抱いていた凜も、誠也とれいらのキスシーンを目撃したことから、その気持ちに鍵をかけてしまったようだ。一見すると無邪気な関係には、いくつもの地雷が埋まっている。

 そんな危うい地平に、もうひとつ地雷が埋め込まれた。れいらがパパ活相手に襲われ怪我を負ったのだ。そのことを唯一打ち明けた相手は、貴志。腫れた瞼を臆することなく見せるなど、れいらにとって貴志は異性というよりいちばん心を許せる相手なのだろう。だが、そんなれいらを気にかけているのは、中山。しかし、大人と同じ顔をしている中山は、れいらにとっては自分を襲ったパパ活相手と同じ顔。怪我のトラウマから中山を直視できなくなり、露骨に避けるようになる。

 こうした複雑に矢印が入り組んだ恋愛相関図に、「美容手術」という要素が加わることで、『きれいのくに』は唯一無二の青春ファンタジーとなっている。

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