綾瀬はるか、演技力の高さをフルに発揮! 劇場版『奥様は、取り扱い注意』で緩急のある芝居
ドラマ最終話で勇輝が撃ったのは菜美ではなく、彼らの家に侵入した外国人工作員だった。勇輝と菜美は協力して侵入者達と戦うが、敵の工作員が撃った銃弾が菜美の左のこめかみをかすり、菜美は倒れてしまう。菜美は一命をとりとめたものの記憶を失い、“桜井裕司”の妻・“久実”として穏やかな日々を送っていた。
“久実”は、かつて菜美が望んでいた生活を送り、やわらかな笑顔を見せるのだが、どこか浮かない顔をしている。それはまるで何かを抑え込んでいるように見えた。物語が進む中で、菜美は途中で記憶を取り戻すも、勇輝との生活のために記憶喪失の「フリ」をしていたことが明かされる。どうりで笑顔が息苦しく見えたわけだ。記憶喪失の「フリ」をやめ、ありのままの自分で勇輝の前に現れた菜美は、ドラマ版以上にイキイキとしていた。綾瀬の緩急のある演技に脱帽する。
スケールアップしたアクションシーンは迫力満点で、ドラマ版でも話題を呼んだ菜美と勇輝が本音をぶつけ合いながら戦う“夫婦喧嘩”も健在だった。しかし、「(菜美が)協力者にならなければ、お前の手で始末しろ」と言われていた勇輝は、ドラマ最終話同様、菜美に銃口を向けることになる。「愛してるなら、殺して」と、まっすぐ勇輝を見つめる菜美の目元がたまらない。綾瀬の表情は“久実”の時とは全く異なり、菜美が何を求めて生きているのかがひしひしと伝わってくる。
勇輝は菜美の胸を撃ち抜くが、致命傷には至らなかった。「愛している」と言う勇輝に、声に出さず「愛している」と返す菜美。この時、菜美は勇輝にだけ分かるように、胸を撃ち抜いても死なない場所を示していた。映画の終わり、異国の地で暮らす菜美の胸には勇輝に撃ち抜かれた傷跡が残っている。菜美はその跡をどこか愛おしそうに見つめながら、対岸にやってきた追っ手の車を見て悠々とその場を立ち去った。勇輝を愛しながらも、スリルのある生活を求め続けることを決めた菜美の姿はあまりにも魅力的だった。
丁寧に張り巡らされた伏線や菜美の思いが、後半になって一気に進むのが面白かった今作。今後、菜美と勇輝が再会するかどうかは分からない。けれど、小さな地方都市に一人残った勇輝が最後に見せた安心したような笑顔と、異国の地にいる菜美の清々しく悠然とした姿から、お互いに愛しているからこそ選んだ最善の別れなのだと考えている。
■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。
■公開情報
劇場版『奥様は、取り扱い注意』
全国公開中
出演:綾瀬はるか、西島秀俊、鈴木浩介、岡田健史、前田敦子、鶴見辰吾、六平直政、佐野史郎、檀れい、小日向文世
原案:金城一紀
脚本:まなべゆきこ
監督:佐藤東弥
エグゼクティブプロデューサー:伊藤響、西憲彦
プロデューサー:枝見洋子、飯沼伸之、和田倉和利、坂本忠久
配給:東宝
製作 : 日本テレビ放送網株式会社ほか
(c)2020映画「奥様は、取り扱い注意」製作委員会
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