「ひと狩り行こうぜ!」的な気軽さはない!? “ゲーム映画”としての『モンスターハンター』

ゲーム映画としての『モンスターハンター』

 「俺、ゲームが下手で良かった!」……こんな妙な気持ちになる日が来るとは思わなかった。何の話かというと、『モンスターハンター』(2021年)の話である。本国での評判が厳しかったので心配したが、私は物凄く楽しめた。何ならポール・W・S・アンダーソン監督の最高傑作だとすら思う。ここまで私の心に突き刺さったのは、私のゲーム技術が低いからである。そしてこれはゲーム映画の本質的な部分にも絡んでいると考えられる。

 『モンスターハンター』といえば、カプコンが世界に誇る大ヒットゲームである。タイトル通り、モンスターを狩って遊ぶゲームだ。他ユーザーとの協力プレイが充実していることでも知られ、「ひと狩り行こうぜ!」というキャッチコピーは耳にしたことがある人も多いだろう。ただ、今でこそ超有名シリーズだが、最初に『モンスターハンター』が登場したときは「知る人ぞ知る」という位置づけで、決してカジュアルなゲームではなかった印象だ。実際、私は1作目の時点でモンスターを狩れないまま、何回も死んでいるうちに心が折れてしまった(まぁ単に私に友人がいなくて協力プレイができなかったせいもありますが)。あれ以来「『モンハン』といえば、難しいゲーム」と固定観念を抱えたまま今日まで生きてきたのだが、そんな『モンハン』がハリウッドで実写化されるという。率直に言って、不安で仕方なかった。「あれを映画にするのは難しいぞ。だって物語やキャラで魅せるタイプのゲームではないし。だったら似たようなゲーム性で物語性を強めた『ゴッドイーター』の方が……」などと心配したが、実際には冒頭に書いた通り、手のひらが見事に回転した。

 本作は驚くほどテンポが良い。冒頭から『北斗の拳』の「199X年、世界は核の炎に包まれた!」ばりに「異世界はあります!」と力強く宣言するや、いきなり『モンハン』の世界でモンスターが大暴れ。すると今度は舞台が現実世界に切り替わる。女兵士アルテミス(ミラ・ジョヴォヴィッチ)が部隊を率いて失踪した仲間を探していると、言い逃れできないレベルで『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)な砂嵐に襲われ、『モンハン』の異世界へ迷い込んでしまう。「ここは何だ?」と戸惑うアルテミス一行だが、そこに凶悪なモンスターのディアブロスが襲ってくる。銃火器で対抗するが、まったく勝負にならず、次々と仲間を失うアルテミス。何とか逃げ延びるが、今度は蜘蛛型のモンスター、ネルスキュラが襲ってきた。ここでも言い逃れできできないレベルで『ミスト』(2007年)な残虐描写で仲間が殉職。前半は完全なモンスター系サバイバルホラー映画であり、「ひと狩り行こうぜ!」的なポップさは全くない。監督のポール・W・S・アンダーソンが得意とするホラーマインドが全開になっており、確実に賛否が分かれるだろう。だってそもそも『モンハン』はホラーではないのだから。

 しかし、このホラー的なアプローチと、過酷なサバイバル描写が私にはシックリ来た。なぜなら私にとって『モンハン』は難しいゲームだからだ。モンスターを狩るどころか、抵抗もロクにできず何回もモンスターにブチ殺された身としては、この過酷さがしっくりきた。もし私がゲームの達人で、モンスターをサクサク狩れる人間だったら、「こんな陰惨なゲームじゃないだろ!」と思っていただろう。だから「ゲームが下手でよかった!」……そうガッツポーズをしたのである。志しの低い話なのだけれど。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる