『ガルパン 最終章』における最大の挑戦 第3話に示された“世界観の深化”が意味するもの

 通常、多くの作品においては主人公を中心に物語が展開されていく。 テレビシリーズにおいては県立大洗女子学園の廃校の危機を救うために、さらに西住流戦車道の家元の娘として、家庭環境などの問題があることを匂わせながら、主人公の西住みほが中心となって活躍する物語が展開されていた。

 今作でもテレビシリーズ同様、みほが大洗女子学園戦車道チームの指揮官として活躍し、物語を進めていく。だが、この最終章ではみほは主役でありながらも、物語の中心にいるとは言い切れない面がある。最終章では物語の起点となるのはサブキャラクターである河嶋桃の進学危機問題だ。河嶋を隊長とし、大会で実績を挙げることで推薦入学を果たすことを目的としており、みほは副隊長として指揮している。

 このことから見えてくるのは、西住みほという存在がいなくなっても、大洗女子学園チームは存続できるのか? つまり、主人公不在のチームは主人公チームたり得るのか? という実験ではないだろうか。それを示すように3章では、みほが搭乗するあんこうチームが撃破されるという衝撃のラストが待ち構えており、次回に対して強烈な関心をひく作りとなっている。

 大洗女子学園と対戦する相手校もBC自由学園、知波単学園、継続高校と劇場版や最終章から登場する面々となっている。みほの活躍度が減り、敵も含めて多くのキャラクターが登場する群像劇となっているから見えてくるのは、世界観の深化ではないだろうか。西住みほの物語から脱却し、モブキャラクターをつくらず、群像劇とすることでより作品世界を広げる。そういった”エンタメでありながらも実験的”な様子が最終章からは感じられる。

 『ガルパン』シリーズは本物の戦車を使用している設定があり、危機感を生みながらもどこかほのぼのとした物語だ。観客は『ガルパン』においてキャラクターが亡くなることはないと知っている。しかし、だからと言って物語がダレることはない。また、敗者は勝者を純粋に応援し続けれることができるのも、スポーツもののような清々しさを与えている。

 これは戦車を用いた、広い意味で戦争作品と言えるジャンルの中でも異例ではないだろうか。各国の特徴を捉えながらも、時には笑いにし、時には融和を描く。この“平和な世界大戦”こそが、世界観を広げた『ガルパン』シリーズの最大の挑戦と結果になるのかもしれない。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■公開情報
『ガールズ&パンツァー 最終章』第3話
現在公開中
監督:水島努
脚本:吉田玲子
キャラクター原案:島田フミカネ
キャラクターデザイン・総作画監督:杉本功
考証・スーパーバイザー:鈴木貴昭
キャラクター原案協力:野上武志
3D監督:柳野啓一郎
美術監督:平栁悟
撮影監督:関谷能弘、棚田耕平
音響監督:岩浪美和
音楽:浜口史郎
アニメーション制作:アクタス
キャスト:渕上舞、茅野愛衣、尾崎真実、中上育実、井口裕香、福圓美里、高橋美佳子、植田佳奈、菊地美香、吉岡麻耶、桐村まり、中村桜、仙台エリ、森谷里美、井上優佳、大橋歩夕、竹内仁美、中里望、小松未可子、多田このみ、山岡ゆり、秋奈、井澤詩織、山本希望、葉山いくみ、椎名へきる、瀬戸麻沙美、大空直美、米澤円、七瀬亜深ほか
製作:ガールズ&パンツァー 最終章 製作委員会
配給:ショウゲート
(c)GIRLS und PANZER Finale Projekt
公式サイト:http://girls-und-panzer-finale.jp/
公式 Twitter:@garupan

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