俺たちの市原隼人が帰ってきた! 『ヤクザと家族 The Family』にみる俳優としてのキャリア
冒頭で述べたように、『ヤクザと家族 The Family』での市原の芝居には、彼の俳優としてのキャリアが浮き出て見える。一つの作品のなかで、10代の不良から20代の若いヤクザ、さらには30代の生活者までをも演じていて、まるで市原のこれまでの軌跡を振り返っているような印象を受けるのだ。
市原が演じるのは、細野竜太という人物。本作は1999年、2005年、2019年という3つの時代のなかで変化していくヤクザの世界を“家族”の視点で描いたものだ。1999年の細野は、不良である主人公・山本(綾野剛)の後輩であり、2005年はヤクザとなった山本の舎弟。そしてそれから14年の時を経た2019年の細野は、ヤクザから足を洗い、一般的な社会生活を送ろうと必死にもがく男となっている。
本作で市原が背負っているものは、とても大きく重い。10代と20代のパートでの細野は市原の得意とする役どころのように思えるが、30代の細野は違う。彼は時代の流れに翻弄されて生きる、生活者なのである。演じる市原は、時代の変化とともに淘汰されていくヤクザの悲しみを、弱々しい表情や声の震えに乗せた。ヤクザ稼業から足を洗っても、5年間は人間として扱ってもらえないという“5年ルール”の苦しみを静かに語る姿は、うつむきながらであるにもかかわらず、まさに“心の叫び”が悲痛なものとして観る者に迫ってくる。
その悲痛な叫びは、映画のラストまで響き続ける。未見の方もいるのだろうから、そこには触れないでおきたいところだ。本作で演じる細野役について強く述べたいのは、若き日の市原の“イメージ”を彷彿とさせるものを大胆に見せながら、本当の“演技者”にしか成し得ない表現や、生粋の“演技者”だからこそ生み出すことのできる瞬間を主張している点である。俳優・市原隼人は、まだまだこれからが楽しみだ。やはり彼は、ヒーローである。
■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter
■公開情報
『ヤクザと家族 The Family』
全国公開中
監督:藤井道人
出演:綾野剛、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗、菅田俊、康すおん、二ノ宮龍太郎、駿河太郎、岩松了、豊原功補、寺島しのぶ、舘ひろし
プロデューサー:河村光庸
制作:スターサンズ
配給:スターサンズ、KADOKAWA
(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会
2020年/日本/136分/5.1ch/ビスタ/カラー/デジタル
公式サイト:yakuzatokazoku.com