新文芸坐×新宿武蔵野館×立川シネマシティの担当者が語り合う、コロナ禍以降の映画館

シネコンの名画座化

遠山:お客様が映画館に戻ったといえば 6月、7月の時に、ジブリのリバイバル上映があったじゃないですか。あれが結構大きなインパクトで。今って名画座を知らない世代の子がたくさんいると思うんですよ。だから「シネコンで昔の映画がもう一度かかることがあるんだ」ってあの上映で知ったという人が、かなりいるはず。本当に、シネコンもコンテンツが全然ないので、何か上映せざるを得ない。新作だけだと上映作品が埋まっていかないので、何か企画上映しなきゃいけないとなるわけです。しかし、そうなるとミニシアターさんや名画座さんの領域にめちゃめちゃ侵食していってしまうので、本当に大丈夫なのかなと。

花俟:いや、だめでしょ(笑)。由々しき問題なんですよ、しゃれになりません。緊急事態宣言明けに『復活の日』という昔のSF作品があったのですが、「あれを文芸坐がやるだろう」とみんな言っていて、その気でいたらシネコンさんでの上映が決まっていて……。

西島:なかなか、作品探しに必死だったというのは、皆さん同じだったかなと思います。

遠山:今後シネコンのコンテンツ、作品のプログラムの中に、旧作上映や特集上映が組み込まれる流れが加速化していくと思います。特に、ハリウッドのメジャータイトルが軒並み延期になっていますし、この後日本で映画館の動員が仮に回復したとしても、上映する作品がない。もっと言えば来年公開予定のワーナー・ブラザースの新作17本が全て劇場公開と同時に米ストリーミングサービスのHBO Maxに配信されることが決定しています。すると、日本の劇場での公開はどうなっていくのかという問題があります。

花俟:ただ、シネコンの名画座化は別に今に始まったことではなく、もう避けられないことだと思うんです。例えばアップリンクさんが、ここ数年「見逃した映画特集」をやっていて、あれが始まった頃に、「こういう時代が来たな」と思ったんですよ。逆に名画座が通常館に近づくことも必要だなと。名画座と言えば2本立てがメインですが、作品によっては1本立てにする試みも行っています。最初はお客様が1本立て上映にしたら拒否反応を示すかもしれないという危惧はあったんですが、実施してみると怒る人もそんなにいなくて。逆に今は2本立てがそこまで求められていないのかなと。それ自体が映画ファンの中でもコア層にしか訴求していないのかな、という寂しいところもあるのですが……。

遠山:1本立ても今後打ち出していくと。

花俟:両立させながらですね。もちろん、2本立てはなくさないですよ。これはシネマシティさんもやっているけど、イベント的なこともどんどん取り入れて、いろいろなことをやっていかないといけないなと思っていますね。

映画館に映画を観にいく理由

――2020年印象深かった上映プログラム、作品は何でしょうか?

花俟:うちの場合はやはり、映画ファンの方が目を向けてくれる、なかなか観ることができない作品・ソフト化されてない作品や日本のインディーズ作品が人気ですね。例えば、杉田協士監督作『ひかりの歌』。非常にいい作品なのですが、ソフト化もされておらず、もちろん配信もされていない。だから観に来てくれる。あと篠崎誠監督『共想』。やっぱり、映画館でしか観られないから来てくれるんですよね。逆に、今まで名画座の鉄板と言われていた「石井輝男特集」が期待していたよりはお客様が来なくて……。コンテンツとして消費されすぎてしまったからなんでしょうね。ソフトになっている作品は映画館で観なくてもいいや、という人が確実に出てきているというのを実感しました。

遠山:衝撃だったのが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の再上映です。シリーズ3作がアプリやYouTubeで4月末頃から無料配信されていたので、その影響があったみたいで……。そこから2、3カ月しか経っていないうちに上映したからなのか、想定の4分の1しか入りがなかったです。

西島:コロナ禍以降でいうと、数少ない中でですが、特集上映 『ジャン=ポール・ベルモンド傑作選』がヒットしました。実は突発的ではなく、宣伝プロデューサーが数十年に渡り温めていた企画でして、たまたまこの機会に上映作品8本の権利が取れたんです。その8本は、花俟さんもおっしゃっていましたけど、“観られない、ソフト化していない”もので。日本初公開のものを含めた旧作で、ちゃんとプランニングがしっかりしていたことも含めて成功して良かったです。

 劇場で映画を観る理由は、その辺がより重要になってきている感じがします。今までだったら週に何回か映画館に行こうというお客さんが、いまは週に1回、2週間に1回とか頻度を減らして、かつ、安い日に観ようとしている。なので、水曜日とかのサービスデーだけ売り上げが上がったりするじゃないですか。だから、そういう背景を含めて、皆さんが劇場で映画を観る機会を少しでも増やすためにどうしたらいいか、というとこのせめぎ合いです。

遠山:映画館で映画を観たいという人は絶対いる。あと、Netflixなどに映画鑑賞目的で加入している人は、やはり映画自体が好きなので、映画館にそもそも行っていると思う。アニメとか、テレビドラマを観るためだと、同じようにはならないかもしれないですが。

西島:Apple TV+で配信されたソフィア・コッポラ監督最新作『オン・ザ・ロック』を配信の3週間前から限定公開しました。これは想像以上の動員でした。

遠山:うちも上映しましたが、予想以上の動員でしたね。

西島:ソフィア・コッポラの最新作を観たいという人は、やっぱり映画ファンなんですよね。遠山さんがおっしゃったみたいに、その方たちは「配信で観ても良いけど、劇場でもとりあえず1回観たい」という人たちだと思うので、本当に作品によるのかなと感じました。

花俟:配信作品との両立はもう避けられないですよね。

遠山:避けられないですね。ハリウッドメジャー作品が、日本でも配信と同時に劇場公開するようになったら、シネコンには淘汰の嵐が吹き荒れますよ。生き残っていけない。

花俟:そうなると、名画座が上映してきた作品を取られてしまうので、名画座がなくなるんですよ。

遠山:それもあるかもしれませんね。不安しかないですよね、あんまり希望がない話でアレだけど(笑)。

花俟: 僕らは旧作をブッキングしないといけないので最近はまずその作品が配信されているかをチェックするようになりました。文芸坐は元旦から、黒澤明と三船敏郎作品の上映をやるんですよ。武蔵野館さんも三船をやりますよね。これはすごい試金石だと思っていて。この前、ちょっと若い子と話す機会があって、「今度、黒澤を映画館でやるから観に来なよ」って言ったら、若い子が「配信で観られますよね?」と言ったんです。あぁ、そうかと。そういう考えの人がいるのは、もう仕方がない。それは受け入れるから、ではそうじゃない人がどのくらい来てくれるのかというのを、ちょっと正月興行で見極めようと思っています。特にオールナイト上映は、若い人に向けているから配信されている作品だと入りは厳しい。有料レンタルだったらまだ良いかな、という判断をしています。

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