『天気の子』は新海誠監督の“裏ベスト”? 2021年に繋がる世界の姿を考える
『天気の子』に注目したい。新海は制作初期から地球温暖化による環境破壊が発想に影響を与えたと語っている。確かに海面の上昇などの今後の地球環境の悪化は避けることができず、その時代を生き抜くしかない我々に深く突き刺さる問題だ。
だが、2021年の現在に見直すと、また違う見方ができるのではないだろうか。人間の力では対抗することが難しい問題は環境破壊のみではない。そう、新型コロナウイルスによる、新しい生活様式の問題だ。
そう考えると、終盤の描写には考え込んでしまう部分がある。降り止むことのない雨によって東京は水没してしまうが、それでもそこに住む人々は変わらずに存在している。生活はとても不便になったけれど、その異常事態すらも日常となってしまう、人間の強さが描かれている。それはマスクを着用して外出が当たり前の光景になり、ソーシャルディスタンスやメディアの報道を眺めながら、普通の生活を送る現実世界の我々と何が違うのだろうか。
もちろん新海監督がこの事態を予想していたわけではないだろうが、偶然にもウィズコロナのアニメ作品が既に生まれていたのだ。それだけ、多くの問題を連想する普遍的なテーマを扱っているという証拠でもあるだろう。それ以外にも貧困家庭の問題や、家に居場所を感じられず家出をする少年たちの非行問題なども扱い、社会的なテーマも多く扱っている作品としても評価したい。
『君の名は。』は新海の過去作品の要素も多く入れながらも、高校生の愛らしく真っ当な恋愛と真摯な想いが胸を打つ作品だった。一方では『天気の子』は家出少年や子どもたちだけで暮らす描写などに面食らうかもしれない。
新海は公開前に「意見がわかれる映画になると思う」と語り、実際に作中では主人公の帆高の犯罪混じりの行動などは賛否が割れた。それでも、世界を犠牲にしてでも繋がりたい相手がいる、というわかりやすい行動は、多くの観客の心に響いた。そこまで極端なものはなかなかないだろうが、そういったつながりや強い他者への想いこそが、コロナ禍が続く現代において、重要なものではないだろうか。
『君の名は。』が表ベストならば、『天気の子』は裏ベストだ。この2作が描いていることは表と裏の違いこそあれど、時には世界すらも変えてしまうほどの強い他者への想いは同じものだ。 映像からも物語からも、新海の強い作家性を、ぜひ堪能してほしい。
■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。平成アニメの歴史を扱った書籍『現実で勇者になれないぼくらは異世界の夢を見る』(KADOKAWA刊)が発売中。@monogatarukame
■放送情報
『天気の子』
テレビ朝日系にて、1月3日(日)21:00〜放送
声の出演:醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、吉柳咲良、平泉成、梶裕貴、倍賞千恵子、小栗旬
原作・脚本・監督:新海誠
音楽:RADWIMPS
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:田村篤
美術監督:滝口比呂志
(c)2019「天気の子」製作委員会