『スタートアップ:夢の扉』は“初恋”の定番筋書きを覆す? “2番手の男”が人気を集める理由

『スタートアップ』“2番手の男”なぜ人気?

 一方でドサンというキャラクターも、非の打ち所がない完璧男子がデフォルトである韓国ドラマにおいて、珍しいキャラクターであった。感情より理論で生きてきた理系男子のドサンは、工科大学出身の天才的なエンジニアに見えるが、優しい菩薩のような性格で、趣味は編み物というほのぼのキャラなのである。

 ディオールの韓国アンバサダーを務め、若者のファッションアイコンであるナム・ジュヒョクが、絶妙にダサいチェックシャツに身を包み、髪はボサボサで、女心がわからない不器用な男性を演じるそのギャップも魅力的で、『まぶしくてー私たちの輝く時間』以降、演技力で高い評価を得ている彼が、不安心理を表情や目つきで巧みに表現する。ダルミと文通を交わし合った尊い思い出を持つジピョンとは異なり、ドサンはいわば「偽物」。ダルミから愛される理由を持ち合わせていない。家族と初恋相手に塗り固めた嘘は、新たな嘘を呼びドサンの心を苦しめるが、その嘘を現実にするため、そしてたったひとつの愛の為に成長していく。

 現地の視聴者の声には、ジビョン派も多かったが、愛と嘘との間で葛藤し、人目も憚らず涙を流すドサンの真っ直ぐなピュアさに心を打たれ、ドサン派になったという意見も見受けられた。毎話エピソードごとに“どちら派か”でSNSでは大きな盛り上がりを見せた本作。それほどまでに、本作は、本当のその人自身を愛するか、それとも過去の特別な思い出と記憶を介して彼を愛するか、という愛の本質を問いかけた。そしていかなる選択であっても“自分の選択は間違いではない”とそっと背中を押してくれるのだ。

■Nana
韓国系のドラマ専門フリーライター。ドラマレビューサイト運営、「k-bord」にて執筆。Twitter

■配信情報
『スタートアップ:夢の扉』
Netflixにて配信中
出演:ペ・スジ、ナム・ジュヒョク、キム・ソンホほか
原作・制作:オ・チュンファン、パク・ヘリョン
写真はtvN公式サイトより

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