移民を描いた米国資本映画『ミナリ』は外国語映画 ゴールデングローブ賞の規定にハリウッド憤慨
そして、使用言語の例でいうと、クエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』(2009年)は英語とドイツ語・イタリア語・フランス語の比率が30%/70%なのにも関わらず、第67回ゴールデングローブ賞で作品賞(ドラマ部門)にノミネートされている。また、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の『バベル』(2006年)も、作品のパートによって日本語、フランス語、スペイン語が使われているが、第64回ゴールデングローブ賞作品賞(ドラマ部門)を受賞している。では、英語ではなくナヴィ語が使われている『アバター』(2009年、ドラマ部門作品賞受賞)の場合は……?
ちなみにアカデミー賞の国際長編映画部門は、各国が代表作を選び応募するシステムで、主に英語以外の言語が使用されたアメリカ国外で製作された作品が条件となる。2019年度の第92回より、「世界の映画界では、外国語という呼び名は既に時代遅れ」という見解から、「外国語映画部門(Foreign Language Film)」を「国際長編部門(International Features)に改めている。もちろん、作品賞候補作に「英語作品に限る」という線引きはしていない。一昨年は全編スペイン語と先住民言語のミシュテカ語が使用された『ROMA/ローマ』(2018年、アルフォンソ・キュアロン監督)が作品賞でも有力視され、全編韓国語の『パラサイト 半地下の家族』が作品賞、監督賞、脚本賞、そして国際長編映画賞を受賞したのは、わずか10ヶ月前のこと。大きく前進したハリウッドの多様性・包摂性に冷や水を浴びせるようなゴールデングローブ賞の判断は、時代に逆行していると言うしかない。とはいえ、2021年2月12日に米国で劇場公開予定の『ミナリ』にとって、たとえバックラッシュであろうとメディア露出は利点となる。このニュースはVarietyやIndiewireなどのエンターテインメント業界誌だけでなく、ロサンゼルス・タイムズやUSA Todayといったナショナル・メディアでも報じられ、サンダンス映画祭の優れた小品を広く世に知らしめた。『ミナリ』が来年行われる賞レースで目玉となるのは必然となった。
■平井伊都子
ロサンゼルス在住映画ライター。在ロサンゼルス総領事館にて3年間の任期付外交官を経て、映画業界に復帰。
■公開情報
『ミナリ』
2021年3月19日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
監督・脚本:リー・アイザック・チョン
出演:スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、ユン・ヨジョン、ウィル・パットン、スコット・ヘイズ
配給:ギャガ
上映時間:115分/原題:Minari
Photo by Melissa Lukenbaugh, Courtesy of A24
公式サイト:gaga.ne.jp/minari