岩田剛典、俳優としてさらなる高みへ 『AI崩壊』『空に住む』“ハマり役”得た2020年

岩田剛典、俳優としてさらなる高み

 そうしておとずれた2020年。まず年明けには『AI崩壊』が公開された。同作は、“AI(人工知能)”が社会を管理する世界を描いたもの。医療人工知能が暴走をはじめたことで、その開発者である男(大沢たかお)が追われる身となり、岩田は彼を追うサイバー犯罪対策課のトップの男・桜庭誠を演じた。つねに冷静沈着で、鉄仮面のような面立ちが印象的な桜庭。ここで筆者は、岩田が自身トレードマークでもある笑顔を封じたときにこそ、彼はその真価を発揮するのだと気がついた。とはいえ、“無表情”をこしらえれば良いというものではもちろんない。『去年の冬、きみと別れ』での謎めいた青年役もそうだが、その表情の下にある“何か”を岩田は演じなければならない。いや、演じるというよりも、“滲ませる”という方が正しいだろう。

『AI崩壊』(c)2019 映画「AI崩壊」製作委員会

 そしてそれは、続く『空に住む』でのミステリアスな青年役にも見受けられた。同作は、喪失感を抱えたまま浮遊するように生きるヒロイン(多部未華子)が、仕事や恋愛の間で揺れながら、自己を再発見・獲得していく物語。岩田は、恋愛面でヒロインに揺さぶりをかける人気俳優・時戸森則に扮した。ヒロインは、たまたまタワーマンションで生活することになったことをのぞいては、ごく平凡な女性。そんな彼女の前に現れたのが、“向こう側”の人間だと思っていた人気俳優の時戸なのだ。岩田の発するキザなセリフにキザな仕草。一歩間違えれば“イタイ男”なのだが、これを魅力的な存在に仕上げた。先に述べたような、表情の下にある“何か”を滲ませることによってだ。柔和な笑顔と、他者を刺激する言葉は“ズレ”を生み、それがヒロインにとって魅力として映るのには大いに納得できた。

『空に住む』(c)2020 HIGH BROW CINEMA

 岩田はポーカーフェイス的に感情を表に出さず、“滲ませる”、あるいは観客に“感じさせる”才能がずば抜けている。これに特化したキャラクターを『AI崩壊』『空に住む』で演じ、“ハマリ役”の路線を得た。そしてこれがあるからこそ、『新解釈・三國志』で演じたナルシスティックな趙雲役など、彼の表現力の高さを証明する一端にはなっているのだと思う。2021年には、現時点での彼の素晴らしさ(得意どころ)が溢れた主演作『名も無き世界のエンドロール』が公開されるので、これはぜひ期待して欲しい。

※河瀬直美の「瀬」は旧字体が正式表記。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■公開情報
『空に住む』
公開中
出演:多部未華子、岸井ゆきの、美村里江、岩田剛典、鶴見辰吾、岩下尚史、高橋洋、大森南朋、永瀬正敏、柄本明
監督・脚本:青山真治
脚本:池田千尋
原作:小竹正人『空に住む』(講談社)
主題歌:三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE「空に住む〜Living in your sky〜」(rhythm zone)
プロデューサー:井上鉄大、齋藤寛朗
配給:アスミック・エース
製作:HIGH BROW CINEMA
(c)2020 HIGH BROW CINEMA
公式サイト:soranisumu.jp

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