2020年の年間ベスト企画

年末企画:杉本穂高の「2020年 年間ベストアニメTOP10」 作品を提供してくれた関係者に感謝を

『Away』

『Away』(c)2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.

 即興でアニメーションが作れる時代になった。ジョン・カサヴェテスがハリウッドの不自由から逃れて、人間の真実の感情に迫ろうと即興で映画を作ったように、緻密な計算とコントロールが不可欠なアニメーションの常識から飛び出して、ラトビアのギンツ・ジルバロディス監督は一人で制作することで自由を謳歌した。即興演出好きの筆者としては長年待ち望んだ待望の一本だ。

『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』

『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』(c)L’unite centrale

 カナダのケベック州独立住民投票を題材にとった作品なのだが、1%差で独立が否決された現実をひるがえし、1%差で独立が可決された世界を描いている。あり得たかもしれないifの世界を描いたわけだが、それはわずか1%差の分かれ道。世の中はその程度の差で決定的に分かれていくのだとしたら、男と女の関係もほんの僅かなすれ違いで別の形があり得たかもしれない。世界は、ほんの少しのことで変容していく、それを輪郭も曖昧に変容していくアニメーションの中で描く。この映画を見終わって劇場を出た時、現実の風景の見え方が変わっていた。

『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(c)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会

 並々ならぬ決意で作ったと石立太一監督はおっしゃっていたが、その言葉に偽りなく大変格調高い傑作となった。連載にて「メロドラマ」をキーワードに本作について書いたが、メロドラマとは泣ける安っぽい作品のことではない。「メロドラマにおいては、涙は未来の力の源泉(リンダ・ウィリアムズ)」であり、「映画が美しく、わざとらしく、演出されきって、仕上げられていればいるほど、映画は自由で解放される(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー)」のである。『ウルフウォーカー』と同点1位とした。

『ウルフウォーカー』

『ウルフウォーカー』(c)WolfWalkers 2020

 カートゥーン・サルーンは本作で、世界最高峰のアニメーションスタジオであることを証明した。クラシカルな部分もありながら新しさもある。色彩と絵の動きそのものに目が奪われっぱなしの90分だった。ヨーロッパ文明とは、キリスト教によるヒューマニズム(人間中心主義)が幅を利かせているわけだが、本作の欧州にもかつて存在した、多彩で豊かな思想の一端が描かれている。本作は、すでに失われた文明に目を向けることで、私たちが失った「あり得たかもしれない別の豊かさ」の可能性に気づかせてくれる作品だ。

 そのほか、惜しくも選考外となった作品にも触れたい。

 『魔女見習いをさがして』と『泣きたい私は猫をかぶる』と2本の佐藤順一監督作品はどちらも素晴らしかった。特に『魔女見習いをさがして』は、コンテンツと共に生きる現代人を見事に活写した。

 TVアニメでは、『波よ聞いてくれ』、『アクダマドライブ』あたりが印象に残った。短編映画『劇場版 ごん -GON, THE LITTLE FOX-』も素晴らしかった。木彫りの人形によるストップモーション作品で、誰もが知る古典に新鮮な息吹を与えた。志村貴子原作、佐藤卓哉監督の『どうにかなる日々』も感動した。アニメは等身大の人間を描ける。海外アニメーションでは『FUNAN』も力作だった。

 大変だった2020年がまもなく終わるが、2021年もしばらくは先が見通しがたい状況が続くだろう。コンテンツとともに生きる現代人の一人として、来年以降もたくさんの魅力ある作品に出会えることに感謝したい。

TOP10で取り上げた作品のレビュー/コラム

実写とアニメの境を見直す杉本穂高の連載開始 第1回は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』評
『鬼滅の刃』『君の名は。』大ヒットの要因に ufotableと新海誠から探るアニメーションの“撮影”の重要性
『Away』はなぜアニメーションとして画期的なのか VTuberにも通じる“即興性”を読み解く
劇場版『鬼滅の刃』を“列車映画”の観点から読む エモーションとモーションの連動が作品の醍醐味に
劇場版『Fate/stay night [HF]』が問いかける“罪”との向き合い方 映画独自のアレンジの妙
『ミッドナイト・ゴスペル』なぜ話題に? 新感覚アニメーションが可能にした、壮大なテーマの表現
『映像研には手を出すな!』映像制作の悲喜こもごもをどう描く? 湯浅政明・英勉監督の起用を考える

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『ウルフウォーカー』
全国公開中
監督:トム・ムーア、ロス・スチュアート
音楽:ブリュノ・クレ、KiLa、オーロラ
声の出演:オナー・ニーフシー、エヴァ・ウィッテカー、ショーン・ビーン
配給:チャイルド・フィルム
後援:駐日アイルランド大使館
2020年/アイルランド・ルクセンブルク/英語/103分/ヴィスタ/カラー/ドルビー・デジタル/日本語字幕:稲田嵯裕里/原題:WolfWalkers
(c)WolfWalkers 2020

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