強烈な悪役と奇妙なハッピーエンド 『魔女がいっぱい』原作者ロアルド・ダールの魅力とは
ロバート・ゼメキス監督の『魔女がいっぱい』が12月11日に公開された。アン・ハサウェイが恐ろしい魔女を演じ、話題となっている本作だが、そのキャッチコピーには“『チャーリーとチョコレート工場』原作者が贈る”とある。ティム・バートン監督の『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)を知っていれば、たしかにこの作品のテイストをだいたい予測することができるだろう。今回はその原作者、ロアルド・ダールの作家性を、これまで映像化された彼の作品から紐解いていきたい。
児童文学の巨匠として知られるロアルド・ダールの作品を原作とした映画は多い。『チャーリーとチョコレート工場』に関しては、バートン監督よりも前の1971年にメル・スチュアート監督の手によって映画化されている。そして『魔女がいっぱい』も、1990年のニコラス・ローグ監督による『ジム・ヘンソンのウィッチズ/大魔女をやっつけろ!』につづく2度目の映画化だ。そのほかにも『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』(1993年)のヘンリー・セリックが手掛けた『ジャイアント・ピーチ』(1996年)や、ウェス・アンダーソン監督による『ファンタスティック Mr.FOX』(2009年)、スティーヴン・スピルバーグ監督の『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(2016年)など、そうそうたる名監督たちがこぞって彼の作品を映画化している。それほど彼の作品は多くのクリエイターたちの想像力を刺激し、新たなエンターテインメントを生み出す原動力となっているのだ。
戦争の経験を元に、児童文学の道へ
ロアルド・ダールは、1916年に英ウェールズでノルウェー移民の両親のもとに生まれた。第二次世界大戦時、英空軍にパイロットとして従軍した彼は、終戦後はアメリカに移住し、パイロット時代の経験をもとにした短編などを執筆するようになる。風刺とブラックユーモアにあふれる彼の作風は、ことのときすでに確立されていた。後に彼はこの時期のことを「本物の子どものお話を書くための修行期間だった」と振り返っている。また『007』シリーズで有名な作家イアン・フレミングとは友人であり、彼の作品を原作とした映画『007は二度死ぬ』(1967年)や『チキ・チキ・バン・バン』(1968年)では脚本を手掛けた。1990年に没するまで幅広い分野で活躍したダールだが、やはり本人がもっとも楽しんで取り組んだのは児童文学だったようだ。
ロアルド・ダール作品の大きな魅力のひとつは、一風変わったファンタジーの世界観にある。大勢の小人たちとともに、世界一のお菓子を作りつづける天才発明家など、ほかに誰が思いつくだろうか。彼の作品世界はヘンテコで、その奇妙さに読者は惹きつけられる。ダールの作品には魔法や発明がたびたび登場するが、実際彼自身も発明が好きで、さまざまなものを手作りしていたという。彼が作品を執筆していた“小屋”と呼ばれる書斎は、照明から椅子にいたるまで飛行機のコックピットのように計算され、使い勝手が良いように工夫されていた。
また彼は、お話のために思いついたアイディアを実際にやってみることもあったようだ。彼の娘オフィリアによれば、あるときダールは彼女たち姉妹を寝かしつける際、思いつくままにあるお話を語って聞かせたという。長い管を使って窓から夢の素を吹き込む巨人の話だ。もちろんこれは後に『BFG』という作品になるわけだが、彼はお話を中断して庭に出て壁にハシゴをかけ、娘たちの部屋の窓から長い管を覗かせ息を吹き込んだ。その音を聞いて娘たちは眠りについた。彼のこうした発想力やそれを実行する力が、作品にいきいきとした魅力を与えているのだろう。