『鬼滅の刃』『君の名は。』大ヒットの要因に ufotableと新海誠から探るアニメーションの“撮影”の重要性

 アニメーションの制作工程で、何をしているのかイメージしづらいものの一つに撮影がある。

 「撮影」という言葉から連想するのは、カメラの操作だろう。かつてはセルに描かれた絵を一枚ずつ撮影して繋げることで映像を作っていたので、アニメ制作にもカメラは存在していた。しかし、アニメーション制作の現場にデジタル機器が導入されて久しい今、撮影と呼ばれる工程に現物のカメラは用いられていない。それゆえ、アニメーションにおける撮影とは何なのかがわかりにくい。

 しかし、その分かりにくさとは裏腹に、現代アニメーションにおいて撮影は極めて重要なセクションとなっている。それは作品を完成させるフィニッシュワークとしての重要さだけでなく、クオリティアップの演出の面においての重要度が高まっているのだ。

 この記事では、現代アニメーションの撮影の重要性を、近年大ヒットを生んだ、新海誠監督とアニメーションスタジオufotableを例に語る。この両者(社)は、ともに撮影へのこだわりが強いことで知られているからだ。

アナログからデジタルになり撮影はどう変わったか

 デジタル時代の撮影の話の前に、アナログ時代の撮影を振り返っておこう。

 前述したが、かつてのアニメーションの撮影とは、アニメーターが描き、色塗りされたセル画と背景を重ねて一枚ずつ撮影していた。撮影台にセル画を固定し、膨大なセル画を一枚ずつ撮影していく手間のかかる作業だ。

 様々なタイプの撮影台があるが、カメラで可能な演出というのは、撮影台の昨日によって限定されていた。スタジオジブリは、『平成狸合戦ぽんぽこ』制作時に撮影部を発足させ、2台の撮影台を導入したそうだが、その撮影部の責任者となった奥井敦氏が撮影台の変化で起きた演出面での向上についてわかりやすく説明してくれているので引用する。

「それまで使っていた撮影台では、カメラは上下にしか動かせず、絵に寄ったり引いたりすることはできたのですが、カメラを縦横に振ることはできませんでした。その場合、下に置いた絵を動かさなければならなかった。でも、新しく導入したカメラは、縦横の動きもできるようになったので、作業はすごく楽になりました」※1

 奥井氏は、『耳をすませば』制作時にこの撮影台の能力をフル活用できたと語る。主人公の雫が地球屋の中でバロンの置物を見つけて歩み寄るカットなどで、それは発揮されたという。※2

 この撮影台は、動きをコンピュータ制御できるタイプで精密な動きも繰り返し行えるものたったそうだ。しかし、奥井氏はこの時点で「これ以上アナログで出来ることはあるだろうか」と感じていたそうで、『耳をすませば』では一部のシーンでデジタル合成を導入。これでデジタル撮影の可能性を知ることができたという。※3

 そうして、業界全体で時代はデジタル撮影の時代に突入していく。デジタル撮影は、コンピュータ上で原画や背景を組み立てるため、物理的なカメラを使用しない。アニメーション撮影監督の泉津井陽一氏いわく、「作業内容からすれば合成もしくはコンポジットと呼んだ方」がふさわしいとのことだ。※4

 撮影の仕事は、大別すると「エフェクト」と「カメラワーク」で、とりわけ「エフェクト」が近年のソフトウェアの発達によって大きく表現の幅が拡大したと、泉津井陽一は語る。※5

 デジタル撮影で何ができるかというと、光源の設定やガラスや窓から見て景色のようなフィルタ、被写界深度の調整など多岐に渡る。

 そうしたデジタル撮影の特性を生かして作家性を確立し、最も大きな成功を収めた作家が新海誠だ。

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