世界中で6200万世帯が観た『クイーンズ・ギャンビット』 王道チェスドラマが大ヒットとなった理由

『クイーンズ・ギャンビット』大ヒットの理由

 アメリカでは、11月初旬の大統領選、そして現在の新型コロナの再流行を経て一種の社会現象と言える状況になっている。原作小説は出版から37年経った現在ニューヨーク・タイムズのベストセラー入り、チェスの売り上げも劇的に伸び、オンラインチェスサイトchess.comの新規会員数は5倍に増えたという。チェスのルールや戦術に明るくなくてもドラマを存分に楽しめるが、最終話を観終わる頃にはチェスへの興味が増すため、このような二次行動を生んでいるのだろう。2000年代からアメリカで重要視されているSTEM教育(Science(科学)、Technology(技術)、 Engineering(工学)、Mathematics(数学)の教育分野の総称)にチェスを取り入れる学校もあり、潜在的なポテンシャルが高まっているところに、何も持たない少女が頭脳だけで世界を渡り歩くドラマがぴったりハマった。そして、全7話で完走しやすいシリーズ、奇をてらうことなくカタルシスに向かってまっすぐに進んでいく物語が、終わりの見えないパンデミックの最中にいる世界中の人々の心に癒しを与えたのだ。

Flixpatrolより

 チェスが根付いている欧米ロシア以外でも、台湾、香港、韓国および東南アジアの国々では配信当初からTOP10入りしている。だが、日本だけは11月28日にようやく10位、そして30日に8位と世界から1ヶ月遅れながらようやく注目を集め始めたところだ。12月4日現在、Flixpatrolがデータを集計している101カ国中、80カ国では39日~41日間ランキング入りしているところ、セルビアとルクセンブルグが25日間、そして日本では2日間ランキングに登場している。日本の視聴者はアルゴリズムではなく、観たい作品を検索して観る傾向にあると言われているが、ランキングはずっと代わり映えのしない作品が並んでいる。日本ではチェスが浸透していないからという言い訳も、他のアジアの国々でのヒットを見ると的外れなような気もする。この世界的大ブームにも惑わされることなく、日本だけが独自路線を突っ走っていることがおもしろくもあり、データ企業Netflixにとっては研究のしがいのある国として認識されていることだろう。

■平井伊都子
ロサンゼルス在住映画ライター。在ロサンゼルス総領事館にて3年間の任期付外交官を経て、映画業界に復帰。

■配信情報
『クイーンズ・ギャンビット』
Netflixにて独占配信中
THE QUEEN’S GAMBIT Cr. PHIL BRAY/NETFLIX (c)2020

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