窪田正孝演じる裕一は朝ドラ史上最も“ピュアな愛妻家” 『エール』“並んで歩いた”夫婦の旅路

『エール』裕一は朝ドラ屈指の愛妻家だった

 夫としての裕一をこれまで見続けてきて思うのは「まったく邪気がない人」ということ。創作の過程で行き詰まって、音に酷い言葉をぶつけたり傷つけたりすることもなく、他者に対して語る妻の愚痴レベルはせいぜい「八丁味噌に慣れなくて」程度。舞台の公演中、楽屋を訪ねる音の着物姿を見てなんら照れることなく「綺麗だね」と笑顔を見せる。若い時分に家出事件(?)はあったものの、近年の朝ドラで、ここまでピュアな愛情を照れずに妻に示し続けた夫は他にいない気もする。

 そんな両親を見て育った華が、運命の人として選んだ相手がロカビリー歌手のアキラ(宮沢氷魚)というのも興味深い。

 どこか調子の良さはあるけれど、アキラからは裕一と同じく邪気のなさや人の好さがダダ漏れているし、音楽について語る彼の目はいつもキラキラ輝いている。そういえば、アキラを「この人!」と決めてからの華は、裕一に恋をし、ひたむきに突っ走っていった娘時代の音にそっくりである。

 作曲家・古山裕一は天才だ。が、夫としての彼は、大人になってもクリームを口の周りにつけたまま笑い、時に向う見ずなモードで突っ走る妻・音を100%受け容れ、彼女に恋し続ける少年のようである。それは幼い頃、教会で歌う音の姿を見た時から変わらない裕一の想いなのかもしれない。

 夫婦として並んで歩きながら、互いにエールを送り続けた裕一と音の長い旅がもうじき終わる。それはとても寂しいことだが、この禍の中、ふたりの前向きで明るい姿にわたしたちもエールをもらった。そのことを思い返しながら、裕一と音の旅の終わりを見届けたい。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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