Netflixオリジナル、良作でも打ち切りのワケ 背景には“3つの指標”とテック企業としての野心が
Netflixが見据えるライバルとは
近年では平均2シーズンと言われるNetflixオリジナル作品。Netflixは「コストプラスモデル」と言われる手法を採用しており、番組全体の製作費に加え30%のプレミアムを支払う。そうすると、シーズンを重ねるごとに製作費がかさむのは自明であり、シーズン更新へのハードルはどんどん上がってしまう。ユーザー目線で考えても、シーズンを重ねている作品を新規で観始めるにはそれなりの時間が必要であることをイメージすると、シーズンを重ねる=新規ユーザーの獲得に一役買う影響力は下がっていく。全ての作品に『ストレンジャー・シングス 未知の世界』級の人気を求めるわけではないが、批評家評価だけではなく現実的にユーザーの多くが観たのかどうか欠かせないことは変わらないだろう。もっと言えば、どれだけの人がNetflixに時間を割いたかだ。
Netflixのコンテンツ最高責任者であるテッド・サランドスは直近のVariety紙でのインタビューで、視聴者がどれだけ集中したか、つまりエピソードをどれだけの速さで観たかにも注目していると発言。いわゆるビンジウォッチしたことが、ある種ユーザーがのめりこんだ指標でもあり、良いストーリーにはその要素があるとしている(この良いストーリーとは当然コストに見合った、ということでもある)。新規ユーザー獲得と並行して、いかにNetflixに時間を使ってもらえるかもテーマであるからこそ、グローバル戦略においてのライバルとして、他の動画配信サービスに加えYouTubeにも必ず言及するのだろう。The Vergeは「Netflixは誰にとっても、いつも”何か”そこにあるから機能する」と述べている。そもそも海外テレビシリーズの大ファンからすると、いかにエミー賞にノミネートされたか、批評家の評価がどうだったか、作品として面白かったかどうか、SNSで(もっと言えば自分のタイムラインで)流行っているかどうか、自分の好きな俳優が出演しているかなどに注目してしまいがちだが、Netflixが向いている方向はもっと広い。先ほどのようなファンとしての目線は、実はNetflix全体のユーザーからすればほんの一部なのかもしれない。より多くのユーザーにどれだけ常にNetflixを使ってもらうか、コンテンツ製作だけでなく、テックカンパニーとしてのコメントだなと改めて感じる。
キャンセルが続く中での新しい動き
大好きな作品がキャンセルされる一方で新しい動きもいくつかある。『LUCIFER/ルシファー』などかつては拾う神だったNetflixは直近で捨てる神になっているようで、実は「数字になるコンテンツ」は拾っているし、ポテンシャルがある作品やクリエーターには投資している。キャンセルする作品が続出する中でYouTubeがドラマ製作から撤退したのを機に『コブラ会』を買い付け配信。視聴数も上位にランクインし無事シーズン更新となっている。YouTubeではいまいち認知度に限界があった『コブラ会』もNetflixというプラットフォームであれば数字が取れると判断したのだろう。また、今年自宅隔離中にTikTokでトランプ大統領の口パクものまねを配信し一躍スターになったサラ・クーパーと早々に契約し、『ロシアン・ドール:謎のタイムループ』で成功を収めたナターシャ・リオンとコメディエンヌとして確固たる人気を誇るマーヤ・ルドルフを製作陣に加えコメディスペシャルを配信開始した。TikTokはYouTubeと同じように動画のジャンルとして、特にスマホやタブレット視聴するユーザー層におけるNetflixライバルとも言える。そこで数字をとったコメディアンを起用するところにもNetflixの先を見据えた動きを感じる。
『ハウス・オブ・カード 野望の階段』や『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』を輩出してきた長年の役員シンディ・ホランドが退任し、『アンブレイカブル・キミー・シュミット』や『マスター・オブ・ゼロ』などを後押ししたベラ・バジャリアが新たにグローバル部門のトップに就任したことも影響がありそうだ(今後のビジョンを考えたときに、彼女しかいないとテッド・サランドスもインタビューで述べている)。直近の総合視聴数ランキングでも第7位に『ペーパー・ハウス』のシーズン4がランクイン。シーズン3以降のオリジナル作品でのこの視聴実績はなかなかない。非英語圏のコンテンツ製作も、Netflixが他社よりも先んじて進めているグローバルTVネットワーク化には欠かせない。ファンからすれば、大好きな作品の打ち切りほど悲しいものはないし、それは製作陣も同じだろう。ただ、一営利企業と考えたときに、まだまだ世界目線では伸びしろがあるNetflixとしては、英語圏の作品は特に「アメリカ国内だけでなく、世界でも数字が取れるかどうか」も一つの鍵になるのかもしれない(そしてその点においてはおそらくDisney+が強力なライバルになるはず)。キャンセルに心を痛める日常は変わらないかもしれないが、Netflix存続のターニングポイントと考えると、ファンとしては今楽しめるものを思い切り楽しむ、くらいの割り切りが必要なのかもしれない。
参考記事
・Netflix has replaced broadcast TV as the center of American culture — just look at the viewership numbers|CNBC
・Feeling The Churn: Why Netflix Cancels Shows After A Couple Of Seasons & Why They Can’t Move To New Homes|DEADLINE
・Is Netflix actually making the cultural equivalent of billion-dollar movies?|THE VERGE
・Why Netflix Keeps Canceling Shows After Just 2 Seasons|WIRED
・Here's Why Netflix Cancels Shows So Quickly Now|IGN
・Money to burn; why Wall Street loves NFLX
・Disney should worry about this new report on streaming TV viewership trends|FAST COMPANY
・Disney should worry about this new report on streaming TV viewership trends|cnet
・What Cindy Holland’s Exit and Bela Bajaria’s Rise Mean for Netflix|Variety
・Ted Sarandos on Netflix’s Five Years of Global Growth, Controversy Over ‘Cuties’ and Management Changes
・https://theorg.com/org/netflix/team/bela-bajaria
■キャサリン
Netflix、Amazonプライムビデオ等のストリーミングサービスで最新作を追いかける海外テレビシリーズウォッチャー。webメディアなどで執筆。note/Twitter
■配信情報
Netflixオリジナルシリーズ『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』
Netflixにて独占配信中