田中圭が絞り出した「怖いんだよ」 『アンサング・シンデレラ』で患者の恐怖を体現
現状、治療法のない瀬野(田中圭)の病状に対し、みどり(石原さとみ)はなんとか希望の光を見出そうと治験薬FP258の使用を提案する。だが、瀬野がFP258を試せるようになるためには様々な条件をクリアしなければならず、萬津総合病院はチーム一丸となって治験実施のための審査にこぎつけた。
『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』(フジテレビ系、以下『アンサング・シンデレラ』)第10話では、実際に治験を実現させるまでのハードルの高さと、抗がん剤治療に向き合う患者の恐怖が描れた。
ようやく治験が始まろうという当日に、瀬野は病院を逃げ出し、死んだ母の墓石の前にいた。瀬野は自分の母親が同じ病気で苦しんだ末に助からなかった過去と、自身の今の闘病生活を重ね、恐怖と戦っていたのだ。みどりはそんな瀬野にそっと寄り添い、瀬野の母親・佐緒里(田中美里)が、幼いころに白血病で亡くなったみどりの妹の担当薬剤師であったことを打ち明ける。そしてみどりが薬剤師として少しでも佐緒里に近付きたいと思って努力していることを伝えた。治験審査委員会に挑む萬津総合病院薬剤部のチーム力はもちろん、佐緒里からみどり、瀬野から小野塚(成田凌)、そして瀬野からみどりへとバトンをつなぐように受け継がれてきた薬剤師としての想いが重なり、第10話は涙なしでは観ることのできない視聴者も多かったのではないだろうか。
特筆すべきは佐緒里の墓の前でみどりに心中を吐露する瀬野の姿。今まで薬剤部を牽引し、多くの後輩を育て慕われてきた瀬野だったが、自身が患者側にまわることで本人でさえも手に負えない恐怖や不安と闘い、弱音を吐くことになる。
凛々しい背中とクールな表情が印象的だった瀬野が、目を真っ赤にしながら「辛いんだよ」「怖いんだよ」と声を絞り出すように訴える姿には、胸が締め付けられるようだった。そして田中圭は、そんな瀬野の持つギャップを情けなくも愛しい姿で表現した。
第10話で田中は、今までの責任感や強さを覆す芝居で瀬野の積み上げたイメージを壊していかなければならなかった。そこには人間の抱える死や苦しみへの恐怖という何にも包まれていない“素”の表情が必要になる。田中は作品のキーとなるこのシーンで、“イメージを壊す”難しい芝居を、目やこわばる表情、探り探り発される声のトーンで好演した。
ここでは、瀬野自身が「さんざん偉そうなこと言っておいて、このざまで……」と形容するように人間の弱い部分がさらけ出される。しかしそれはまさに、誰もが手を差し伸べ、一緒に歩もうとしたくなる姿であった。田中が繊細に演じた瀬野の姿は、萬津総合病院だけでなくテレビの前の視聴者をも巻き込み「助けたい」と強く願わせる力を持っていた。