菅田将暉と小松菜奈の“リアルな表情”が心に迫る 『糸』が意味付ける“繋がり”の深さ

『糸』が意味付ける“繋がり”の深さ

 そして本作では脇を固める俳優陣の豪華さにも注目してほしい。特筆すべきは、榮倉奈々演じる桐野香と成田凌演じる竹原直樹であり、どちらも漣の人生において重要な役割を担う。香や直樹と過ごす漣の姿があってこそ、本作はより深みを増す。そこにはそれぞれの視点からみた漣の人生があり、葵との関係の意味が改めて強く浮き彫りになるのだ。

 菅田は、榮倉や成田の演じる役の力強い芝居に対して「受け」の姿勢を取りながらも漣の人生におけるスタンスを示し、改めて菅田の芝居の柔軟性の高さを見せつけた。さらに榮倉と成田のそれぞれが、劇中で中島みゆきの「ファイト!」を歌うのだが、菅田はそれぞれのシーンで「ファイト!」をその時の感情に合わせて受け止め演じ分ける。この掛け合いの見事な美しさこそ、人と人の繋がりが発する一筋の光なのであろう。

 平成という時代の変遷と共に描かれた本作は、リーマンショック、東日本大震災などの災害を如実に描き、平成史をゆっくりと振り返る要素を有しながら、そこに改めて人と人の“繋がり”に深い意味を持たせているのだ。令和になって新たに新型コロナウイルスという疫病が流行り、また人々は“繋がり”の重要性を再確認させられている。このタイミングでの本作の上映は多くの人に新たな気付きを与えるだろう。振り返れば、今近くにいる人物こそが運命の“糸”によって出会った相手なのかもしれない。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■公開情報
『糸』
全国公開中
出演:菅田将暉、小松菜奈、山本美月、高杉真宙、馬場ふみか、倍賞美津子、永島敏行、竹原ピストル、二階堂ふみ(友情出演)、松重豊、田中美佐子、山口紗弥加、成田凌、斎藤工、榮倉奈々
原案・企画プロデュース:平野隆
脚本:林民夫
監督:瀬々敬久
音楽:亀田誠治
配給:東宝
(c)2020映画『糸』製作委員会
公式サイト:https://ito-movie.jp/

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