吉田鋼太郎の松永久秀は従来のイメージを覆すリアリストに 『麒麟がくる』総集編で注目
“裏切る”光秀と久秀
さらにもうひとつ、今、松永久秀が注目を集めている理由として、今年5月に出版された今村翔吾の歴史小説『じんかん』(講談社刊)の存在がある。2020年上半期の直木賞候補にもなったこの小説は、久秀の知られざる生い立ちと青年時代を含めた生涯を、意外なほど爽やかに描き出した一大巨編となっているのだ。従来の「梟雄」イメージを覆すような「忠義」の若者としての久秀。そう、先ほどの引用した吉田のコメントにもあるように、久秀の経歴は、その出身地も含めて、実は依然として多くの謎に包まれているのだ。それを、歴史小説家ならではの大体な発想で描き切った物語。それが『じんかん』なのだ。
本書が興味深いのは、長慶の死後、臣従しつつも二度にわたって謀叛を試みた久秀と、それを最後まで懐柔しようと試みた信長の関係性の謎を解き明かすと同時に、長慶ではなくその父である「三好元長」と久秀の運命的な出会いを、その物語の中核に据えている点だろう。その勢威を恐れた細川晴元によって、志半ばで無念の死を遂げた主君・元長から、ある「夢」を託された久秀。彼はその「夢」を実現させるため、三好家の守護者として、その息子である長慶、さらには長慶の甥である義継に忠義を尽くことになったというのだ。
『麒麟がくる』の前半戦では、それほど出番は多くはないものの、「鉄砲」という光秀という武将を語る上で欠くことのできない武器を最初に与えた人物として、さらには光秀に請われる形で斎藤義龍(伊藤英明)による「信長暗殺計画」を事前に阻止した人間として、実は重要な役割を果たしてきた松永久秀。
『麒麟がくる』の公式サイトに掲載されている「キャストメッセージ」で、吉田鋼太郎は「これからの撮影で楽しみにしているのは、信長のシーン」としながら(興味深いことに、吉田は大河ドラマ『真田丸』で「織田信長」を演じている)、次のように自らのコメントを締めくくっている。
「きっと、光秀と会っているときはまったく違う松永がそこにいるはず。これまで、2人の関係を詳しく描いた作品は少なかったと思うので、どのような関係性やシーンをつくれるか、今から楽しみです」
『麒麟がくる』前半戦における屈指の名シーンとなった信長と道三の対面シーン同様、こちらのシーンも是非楽しみにしたい。そして、信長という人間に魅せられながら、最終的にはそれを「裏切る」という意味で、実は久秀と同じ道を辿ることになる光秀は、久秀の壮絶な最期に、果たして何を思うのだろうか。これまでのイメージをさらに大胆に覆すような、吉田鋼太郎=松永久秀の熱演に期待したい。
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twitter
■放送情報
「『麒麟がくる』まであと3週! これまでの名場面すべて見せます」
総集編(1)旅立ち
8月9日(日)
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『麒麟がくる』まであと2週! これまでの名場面すべて見せます
総集編(2)動乱
8月16日(日)
20:00~20:45/NHK総合・BS4K ※土曜の再放送あり
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18:00〜18:45/BSプレミアム
『麒麟がくる』まであと1週! これまでの名場面すべて見せます
総集編(3)誇り高く
8月23日(日)
20:00~20:45/NHK総合・BS4K ※土曜の再放送あり
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写真提供=NHK