『野ブタ』の先駆性、“ベスト再放送”の『アシガール』……コロナ禍を振り返るドラマ評論家座談会【前編】

北川悦吏子と中園ミホの対照的な作家性

『愛していると言ってくれ』(c)TBS

ーー『愛していると言ってくれ』の北川悦吏子さん、『やまとなでしこ』の中園ミホさんは、90年代から現在まで脚本家としてずっと第一線で活躍され続けています。

成馬:北川さんの書くキャラクターは北川さん自身としか思えないのが面白いですよね。数々の大ヒットドラマを生み出した北川さんですが、2010年代に入り時代と合わなくなった部分があると思うんです。逆に『半分、青い。』が面白かったのは、北川さんがそのことに自覚的で、鈴愛が時代とズレて負け続ける姿が面白くて、ある種のノスタルジーとして同じ時代を生きた視聴者に受け入れられた。一方、中園さんは時代ごとのトレンドを受け入れながら常に変化していったイメージがあります。

田幸:北川さんと中園さんは正反対と言っていい作家性ですよね。北川さんは感性の人というか、肌感覚で感じることをそのまま物語に落とし込んでいくイメージ。一方、中園さんは取材の多さも有名ですが、徹底的に今何が求められているかをリサーチして物語を作っていく。

成馬:『やまとなでしこ』の桜子(松嶋菜々子)にも表れていますよね。計算して演じている姿が逆にハードボイルド的なカッコよさにつながっているというか、観ていて爽快感がある。改めてみると桜子は『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日系)の大門(米倉涼子)や『ハケンの品格』(日本テレビ系)の大前春子(篠原涼子)につながっていく中園ドラマの強い女性像の元型だったのだと、今回の再放送で気づきました。

『やまとなでしこ』(c)フジテレビ

木俣:中園さんの描く女性は一人でも生きていく強さがあるキャラクターですよね。結婚や恋愛も幸せになるための一番の手段ではなく、あくまでひとつの手段になっているというか。かつてのような男らしさ、女らしさみたいなものが淘汰されている今、中園さんが描くキャラクターは今の時代にぴったり合っている。一方、北川さんの描く女性は、「王子様を待ち望む少女」のイメージ。でも、それは悪いことではなくて、そんなキャラクターに自己投影をして楽しんでいる方もたくさんいる。北川さんと中園さん、2人が両輪のような形で作品を作り続けてくれたら面白いなと思います。

成馬:言い方は悪いかもしれないのですが、時代とズレていることこそが、今の北川さんの強みだと思うんですよね。『テラスハウス』をはじめとしたリアリティショーが求められている現在、テレビドラマはすでにリアルな最先端を描けなくなってきているけど、その競争からはもう降りてもいいんじゃないかと、どこかで思います。特にコロナ禍のような状況だと、現実を遮断するシェルターのような場所が求められると思うんですよね。だから今後は、ノスタルジーを感じさせる北川さんの純愛ドラマこそが求められるのかもしれません。視聴者の年齢層も確実に上がっている今、その点にドラマ作りのヒントがあると思います。

『アシガール』も最も望ましい形の再放送に

ーー再放送の作品の中では、NHKで2017年に放送された『アシガール』も大きな話題となりました。主演の黒島結菜、伊藤健太郎の人気が出たこともあり、放送当時よりも視聴されていた印象です。

成馬:2017年当時は土曜日18時からの放送だったため、この作品を観てほしい視聴者層には届きにくかったと思うんですよね。NHK作品は朝ドラと大河以外にも良質な作品が多いのですが、ドラマ好き以外にはあまり知られていない。当時から絶賛する声は多かったですが知る人ぞ知る名作として埋もれていたので、こうしてフックアップされることでファン層が広がるというのは、再放送の一番望ましい形だと思います。その意味で作品だけでなく、編成の仕事としても見事だったと思います。脚本を手がけた宮村優子さんは、作品数は多くないですがどの作品も非常に質が高い。特に2000年に放送された『六番目の小夜子』(NHK教育)もとてもいい作品で、若かりし頃の鈴木杏さん、栗山千明さん、山田孝之さん、松本まりかさん、勝地涼さん、山崎育三郎さんも出ているので、再放送を待望んでいます。

田幸:宮村さんが脚本を手がけた作品では、磯光雄監督のアニメ『電脳コイル』(NHK教育)も名作でした。SFを扱うのがとにかく上手な印象だったんですが、宮村さん自身ももともとSFが大好きで、恋愛ドラマは得意ではなかったそうなんです。『アシガール』は少女マンガを原作に、内田ゆき制作統括、演出の中島由貴さんと企画立案をされた鹿島悠さんを中心に、女性チームがどうすればキュンキュンできるかをディスカッションして徹底的に練り上げ、SF要素の面白さと構成の部分を宮村さんが担ったと聞きました。宮村さんになかった恋愛要素という引き出しをチーム全体で補完することで、これまでにないバランスが生まれた。『アシガール』は非常に理想的なチームのあり方で出来上がった作品だったと思います。

木俣:確かに、「女子高生が戦国時代にタイムスリップする」という突飛な設定ですが、少女マンガ要素に振り切っているわけではなく、非常にバランスが良かった。きちんと説得力を持って構成されていて、SF要素がチープにはなっていなかったのが良かったです。先ほどまでのお話とつなげると、『アシガール』は、北川さんと中園さんが描く物語のいいとこ取りと言ってもいいかもしれませんね。唯(黒島結菜)が姫として守られるのではなく、足軽として惚れた若君(伊藤健太郎)を守る側に立つのも非常に現代的でした。「選ばれる女性から自ら選ぶ女性へ」というのはディズニープリンセスの変化などにも象徴的ですが、『アシガール』の唯はその具現化だったと思います。

田幸:あとはなんと言っても黒島結菜さんと伊藤健太郎さんが見事なハマり役だったこと。伊藤さん演じる若君がとにかくカッコよかった。普段、少女マンガを読まない世代や、ドラマをあまり観ていなかった中高年の女性が熱狂していたのが印象的です。伊藤さんに取材した際、「『アシガール』以降、少し上の世代の方がイベントに来てくれるようになって嬉しい」とも話していました。そして、若君があれだけカッコよく見えたのも、唯が誰もが好きになってしまうキャラクターだったのも大きい。黒島さんにぴったりの役柄でした。

木俣:みんなが唯に自分を投影できるというか、唯の目線で、若君を見て、若君を守りたいし、守ってくれたらお姫様抱っこされたら嬉しいし、みたいな。あらゆるドリームが唯と若君にはありました。本当に黒島さんと伊藤さんで良かったですよね。コラムでも書きました(『アシガール』は奇跡の1本だった 黒島結菜×伊藤健太郎のかけがえのない瞬間がここに)が、2人の一番いい時期に一番いい役に巡り会えたことに視聴者としても感謝したいです。

田幸:役者の方々はいいタイミングでいい役に巡り会えるかが本当に重要ですよね。伊藤さんは現代劇のときは別の魅力があるんですが、『アシガール』を改めて観ると本当に時代劇が似合う方だなと感じます。本格的時代劇はアシガールが初挑戦だったというのが不思議なくらい、殺陣も上手ですし、気品というか佇まいが現代の人ではないみたいで(笑)。あれだけハマる人はなかなかいないです。

木俣:現在は『今日から俺は‼︎』の劇場版が公開されていますが、若君とは雰囲気もまったく違う役柄で(笑)。ちょっとやんちゃな部分も出せる一方、誠実さや真面目さを滲み出せる俳優は貴重です。その点に関して、今は伊藤さんと、『MIU404』(TBS系)に出演中の岡田健史さんが二大巨頭かなと思っています(笑)。

田幸:分かります。どこか古風な佇まいがある感じ。しかも、若い世代からおねえさまおかあさま世代にまで幅広く愛されている。いずれ大河ドラマで主演も務めてほしいですね。

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