『のぼる小寺さん』主演・工藤遥の存在が語るもの 伊藤健太郎らと化学反応を起こす

『のぼる小寺さん』工藤遥の存在が語るもの

 そんな工藤が演じる小寺さんを取り囲むのは、伊藤健太郎、吉川愛、鈴木仁、小野花梨といった、同世代でありながら、映画作品においては先輩である頼もしい俳優陣。伊藤はストーリテラーとして、小寺さんを中心とした青春群像劇を率い、吉川、鈴木、小野らが演じる人物たちもそれぞれに、小寺さんと青春の化学反応を起こす。つまり、タイプが異なり、これまで交わることの無かった彼らの青春の時間が、小寺さんの一生懸命な姿勢を目の当たりにすることで交差していくのだ。誰もが彼女に感化されるのである。

 かといって、小寺さんが周囲の者たちに対して何かアクションを起こすわけではない。彼女がアクションを起こすのは、つねに自分自身に対してだけである。それを受け取った者たちが自然とリアクション(反応)を起こすわけであり、彼女は何も変わらない。この関係性について考えをめぐらせてみると、周囲の俳優陣に工藤が支えられている構図となっていることが分かる。経験値からいってもとうぜんのことだ。だが、それでいて小寺さんにはカリスマ性のような、何か惹きつけられるものを感じる。懸命な姿はもちろんだが、それだけではない。工藤遥という存在そのものが、“小寺さん”というキャラクターにそんな「何か」をもたらしているのだ。彼女がそこに立っているだけで、何かを語ってしまい、何かを放ってしまうのである。これはやはり、工藤がアイドル時代にステージに立ち続けたことで培われてきたものなのだろう。彼女の涼やかな声はすっと耳に沁み入り、これもまた役の説得力として一役買っているように思える。


 小寺さんの存在は、そして本作に必死に取り組んでいる工藤の存在は、誰もが好きなものに夢中になることを肯定してくれる。本作をきっかけに、工藤遥は本格的に役者の道に夢中となるのか。その高みから見える景色は、いまとはまた違うのだろう。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■公開情報
『のぼる小寺さん』
新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中
出演:工藤遥、伊藤健太郎、鈴木仁、吉川愛、小野花梨
監督:古厩智之
脚本:吉田玲子
原作:珈琲『のぼる小寺さん』(講談社アフタヌーン KC刊)
主題歌:CHAI「keep on rocking」(Sony Music Entertainment<Japan>Inc.)
配給:ビターズ・エンド
(c)2020「のぼる小寺さん」製作委員会 (c)珈琲/講談社
公式サイト:www.koterasan.jp
公式Twitter:@noboru_kotera

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