『やまとなでしこ』はなぜレジェンドとなったのか 松嶋菜々子と堤真一の間に生まれた化学反応

『やまとなでしこ』がレジェンドとなった理由

 30歳を超えてからドラマに主演するようになった俳優のことをよく「遅咲きのスター」と言う。インタビュー記事には「長い下積み時代を経てブレイク」などとも書いてある。そして、ここで言う「下積み」というのは、劇団員だったなどの演劇活動を指す場合が多い。前回、『愛していると言ってくれ』(TBS系)の記事で取り上げた豊川悦司や、『麒麟がくる』(NHK)の佐々木蔵之介。『半沢直樹』(TBS系)の堺雅人にしても、劇団の看板俳優であり、30歳を超えてから連続ドラマに主演した。ひと回り下の世代だと、高橋一生がこのパターンに当てはまる。ドラマで女性ファンが増え、にわかに演劇雑誌ではない一般雑誌に露出しはじめた彼らの記事を読んで、演劇ファンはついこう言いたくなる。「彼らは舞台の世界では既にスターだったんだよ。それを下積みと言うなんて失礼じゃない」と。

 そして、『やまとなでしこ』(2000年/フジテレビ系)の20周年特別編が放送中の堤真一も、シェイクスピアや翻訳演劇、野田秀樹演出の舞台で活躍してきた。テレビの世界では1996年に放送された和久井映見主演の『ピュア』(フジテレビ系)で初めて男優の一番手になり、その端正で男らしいルックスと好きな女性を守ろうとする演技で注目された。しかし、当時、筆者も小劇場の公演に足繁く通っていたクチなので、こう思ったものだ。「堤さんがかっこいいなんて、そんなのNODA・MAPの『キル』(初演1994年)のときから分かっていたことなのに!」。

 『やまとなでしこ』で堤が演じたのは、商店街にある実家の魚屋を切り盛りする中原欧介。35歳で、7年間彼女がいない。欧介の大学時代の同級生として、三谷幸喜主宰の東京サンシャインボーイズのメインメンバーだった西村雅彦(現・西村まさ彦)と、鴻上尚史主宰の第三舞台の筧利夫が出演しているのも面白い。3人がそろう場面は、さしずめ小劇場界のスター大集合といったところ。丁々発止のやり取りもさすがに上手いと思わせる。

 序盤、恋愛に不器用な欧介が合コンで出会ったキャビンアテンダントの桜子(松嶋菜々子)に一目惚れし、つい自分も同級生たちと同じ医者だと嘘をついてしまう。偽りから始まる恋。そんなベタな展開は、演劇的背景をもつ堤がテレビ向きの芝居を自在にできるようになったこの時期に絶妙なバランス感覚で演じたからこそ成立したと言える。

 対する松嶋菜々子は生粋のTVスターである。モデルを経て、ドラマで女優デビュー。1996年、連続ドラマ小説『ひまわり』(NHK)のヒロインになったときはまだ22歳だった。その後、1998年の『GTO』(関西テレビ/フジテレビ)から次々にヒット作を送り出し、大河ドラマ主演(『利家とまつ~加賀百万石物語~』)も果たし、『やまとなでしこ』と『GTO』『家政婦のミタ』の3本が連続ドラマ最高視聴率の歴代トップ20に入っているという輝かしいキャリアの持ち主である。ちなみに演劇の出演経験はない。

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