日南響子、『銃2020』で得た役者としての新たな幅 「ここまで自分を追い詰めた作品はありません」

日南響子が得た役者としての新たな幅

 登場人物全員が狂気に満ちている映画『銃2020』。本作は、中村文則のデビュー作『銃』を映画化した2018年公開の同名作品の“もうひとつの物語”として製作された。銃を拾った女性・東子が、銃に魅了されたことにより、狂気の渦に飲み込まれていく。

 主人公・東子を演じたのは、『銃』で“トースト女”を演じた日南響子。『銃』の撮影終了後、プロデューサーの奥山和由、監督の武正晴の、「日南響子で映画を撮りたい」という思いから本作の企画が動き出したそうだが、その期待に応えるように、日南は映画全編にわたり取り憑かれたような芝居を見せてくれている。

 銃に魅了される女性・東子を日南はいかにして自分の中に落とし込んでいったのか。【インタビューの最後にはチェキプレゼントあり】

日南響子がレコメンド【リアルサウンド ONE of Recommend】

 「撮影期間は何かに取り憑かれていた」

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ーー『銃』公開時に武監督にインタビューした際(参考:中村文則の“闇”をいかに映像化したか 『銃』武正晴監督が語るラストシーンに込めた思い)、トースト女を演じた日南さんのことを絶賛していました。続編やリメイクとも異なる、『銃』の双子のような作品となった本作ですが、主演としてオファーが来た際の心境は?

日南響子(以下、日南):『銃』の舞台挨拶で各地を回ってるときに、武さん、奥山さんが「次は日南で撮るよ」と言ってくれてたんです。私の出演シーンは決して多くなかったですし、リップサービスだと思っていたのですが(笑)……そしたら正式にオファーが来て。このような形で次の出演作が決まることはなかったので本当に驚きました。

ーーしかも、脚本には中村文則さんも参加されていて、いわば日南さんのために作られた作品です。

日南:本当に感謝しかないです。私が演じた東子は、親との関係にトラウマを持っていて、他者とコミュニケーションをうまく図ることができません。口数が少ない役はこれまでも演じてきましたが、ここまでのトラウマを抱えている役は初めてでした。誰かに解決してもらうこと、自分で解決することもできない重いトラウマ。しかも、銃を拾って、何かに取り憑かれていくように変化していかなければいけない。そんな役は演じたことがなかったので、台本を読んだときは大きな不安がありました。中村さんの台本は小説のように読めたので、楽しみだなという気持ちはありましたが、撮影日が近づくにつれて、本当にできるのかな、という思いでいっぱいでした。

ーー当たり前ではあるのですが、こうしてお話をされている日南さんと東子では別人のような雰囲気で安心しました(笑)。

日南:東子の状態のままだったら怖すぎですよね(笑)。

ーー役者さんの中には演じた役をしばらく引きずってしまうという方がいると聞きます。東子も強烈なものがあったかと思うのですが、切り替えはすぐにできましたか?

日南:普段はカメラがまわる直前まで素の自分でいることが多いのですが、今回の現場は違いました。おっしゃるとおり、東子を引きずらざるを得なかったというか、ずっと自分自身の中にも重いものがのしかかっている感覚がありました。撮影が後半になればなるほど精神的なダメージも大きくて……。終わる頃には心がボロボロになっていました。でも、そんな心持ちだったからこそ、東子が感じていたであろうわだかまりを映像に焼き付けることはできたのかなと思います。撮影が終わった後は放心状態というか、「あの期間はなんだったんだろう?」と思うぐらいで。完成した映像を観ても、自分が自分ではないようでした。その一方で、自分の中の大事な部分が抜けてしまったような寂しさもありました。

ーー物語終盤の東子は目が虚ろというか、焦点があっていないようで、観ていて怖いぐらいでした。

日南:自分でも映像を観て、目の中に光がなさ過ぎてびっくりしました(笑)。撮影期間は何かに取り憑かれていたような感覚です。

ーー観客も東子の狂気に呑まれていくかと思います。銃を拾ったことにより、狂気に蝕まれていくという点では『銃』のトオル(村上虹郎)とも共通していると思いますが、意識した部分も?

日南:男性が銃を拾うのと女性が銃を拾うのとでは、意味がまったく異なるとは思うのですが、ロングコートの着こなしだったり、鏡に向かって銃を構える姿など参考にした点はいくつかあります。また、親へのコンプレックスがあるという点も東子と共通しているので、佇まいなどは近いものがあるかもしれません。

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ーー武監督からはどんな演出があったのでしょうか?

日南:『銃』のときは参考作品の指示があったのですが、今回は特になかったんです。武さんからは東子が銃をどう扱うのか、どう向き合うべきかを指導していただきました。警察官や犯罪者など、“銃を使うべくして使う”女性はこれまでも描かれてきたと思うのですが、目的もなく銃を拾ってしまうという女性は描かれていないと思うんです。その点で、東子が銃と出会い変化していく様子には、不思議な生々しさがあったのではないかと思います。

ーー確かに、本作は全編にわたり“生々しさ”が漂っていました。特に、東子の部屋は彼女がどう生きてきたかが集約されているようで。

日南:東子の部屋での撮影は本当に大変だったんです。ゴミ屋敷になっているので、人が入ることのできるスペースが限られていますし、とにかく部屋は真っ暗。しかも真夏ということで、撮影中は室温が40度以上でした。自分の動きがどう見えているかもわからず、意識も朦朧とするような状態のときもあったのですが、出来上がった映像を見ると、監督・スタッフの皆の熱意がしっかりと刻まれているなと感じます。

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