『私の家政夫ナギサさん』が切り込む新たな“呪い” 『逃げ恥』と異なる目線で家事を見つめる

『わたナギ』が描く新たな“呪い”

強く願うあまりに、生まれる新たな“呪い”

 長らく日本では、女性は年頃になったら結婚して主婦になり、子どもを産み、育て、お母さんになるのが一般的な時代が続いた。それは多くの女性が他の道を選ぶことが難しいということでもあった。そこから数十年かけて、女性も自分で好きなキャリアを描くべきだと、様々な人が立ち上がり今では様々な場所で女性が活躍。ドラマ制作の現場も然りだ。

 ところが、かつての女性たちが叶えられなかった自由なキャリア選択を、次の世代にさせてあげたいと願うあまり、新たな呪いが生まれた。それが、家事という仕事を「目指してなるべきものではない」とする風潮だ。何かを叶えたいと強く願うあまり、見落としてしまうものがある。それを尊い仕事と見ている人もいること。家事を天職だと呼べる適性を持った人もいるのだということ。

 「これが正しいことだ」と信じてやまないときこそ、広い視野を見失う。それは、ちょうどメイが自分の担当新薬を医師に契約してほしいと躍起になり、その薬を使う患者まで想像が及ばなかったように。世の中は、光が当たれば影が落ちるもの。できるだけ俯瞰してみることが大切だ。そのキッカケになるのが、こうした時代を映すドラマを観る時間なのかもしれない。

ときには、誰かの手を借りられる社会に

 そして、この火曜ドラマに本物の家事代行サービスを営む会社がスポンサードしているのもニクイではないか。男性だって女性だって仕事を一生懸命やれば、家事に手が回らなくなるのは当然だ。かつて女性が当たり前のようにやっていたからといって、外で働くようになった女性にも「やって当然」と押し付ける風土がまだまだ抜けないと聞く。または、女性自身がそうした思い込みを拭い切れずに、自分を追い込んでしまうことも。

 とにかく、アラサー女性は忙しいのだ。大学を卒業するのが22歳。必死で仕事を覚え、自分のペースを掴みだすのが20代後半。ところが、周囲には女性の多くは30歳までに結婚、できれば第一子を産んだほうがいいという情報が溢れている。そうなると30歳で出産するためには、逆算すると29歳のうちに妊娠、28歳のうちに結婚、その前にいくつかの季節を共に過ごして相性を見極めたいから、さらにその前に相手と出会ってなければ……「そんな時間はない!」というのがアラサー女性たちの心の叫び声ではないだろうか。

 仕事は「やればできる」と言われ、結婚は「早くしないと」と急かされ、そこに「家事もできなきゃダメ」なんて、それはキャパオーバーになってしまう人が続出するのも頷ける。ならば、プロのサポートを受けることも一つの手。それを怠けているなんて見られるのではなく、賢い選択という認識になるように。そして、その道のプロとして活躍している人が、男性でも女性でも、その他のどんな性でも尊重される社会であってほしいと願うばかりだ。

 『私の家政夫のナギサさん』は、そんな現代社会の家事を取り巻く呪いに真摯に向き合いながら、その肌触りは洗いたてのタオルのようにソフトなラブコメタッチ。クスッと頬を緩めながら、家事をしてくれた人に感謝を、家事をした自分に称賛を。そんな少し優しい気持ちになる火曜の夜が、これから続くと思うと実に楽しみだ。

■番組概要
火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜放送
出演:多部未華子、瀬戸康史、眞栄田郷敦、高橋メアリージュン、宮尾俊太郎、平山祐介、水澤紳吾、岡部大(ハナコ)、若月佑美、飯尾和樹(ずん)、夏子、富田靖子、草刈民代、趣里、大森南朋
原作:『家政夫のナギサさん』(四ツ原フリコ著/ソルマーレ編集部)
脚本:徳尾浩司
演出:坪井敏雄、山本剛義
プロデューサー:岩崎愛奈(TBSスパークル)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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